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視界が滲む。鼻の奥が、つんと痛む。訳もわからないまま涙があふれ、次から次にこぼれた雫が、奏多のズボンに水玉を作っていく。
向かいに座る少年は何も言わず、何も聞かない。子どもらしくない落ち着いた眼差しで、泣きながら餅にかぶりつく奏多を見つめていた。
最後に残った餅を、歯でしごき取る。すると、割る前の割り箸ほどの太さの棒に、文字が焼き付けられているのが見えた。
大切な人へのメッセージを承ります
顔を上げると、少年は穏やかな微笑みを浮かべている。
「こういうふうに文字を入れて、どなたかにお届けできますよ」
まるでデパートの店員がサービスの説明をするみたいに、金髪翠眼の子どもが流暢な日本語で言った。
ひどく現実離れしている。いや、奏多にはとうに分かっていた。ここが、現実世界ではないことくらい。
「生きてる人に、ってこと?」
奏多はぎゅっと目を閉じ、震える声を絞り出した。
「俺は……死んだんだよな……?」
目が覚めたのは、だだっ広い草原。しばらく彷徨うとやがて見慣れた町並みに着いたが、自分以外は誰もおらず、まるで映画のセットのように空虚な景色だった。
そうか、これが死後の世界なのか。奏多がそれを受け入れて間もなく、たどり着いたのがこの店だった。
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