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少年は顔色を変えず、また質問にも答えず、一度ゆっくりとまばたきをした。
「あなたは、どなたかに、何か言い残したことがあるんじゃないですか?」
つぶらな瞳が、すべてを知っていると言うように、じっと奏多を見つめている。
言い残したことなど、あるに決まっている。ずっと支えてくれた妻を、最悪な形で遺してきてしまったのだ。
けれど。
「何も、言えるわけないだろ……」
あんなに心配してくれたのに。あんなに尽くしてもらったのに。遺された彼女が今どんな気持ちでいるのか、考えるだけで胸が潰れそうだ。
奏多はうつむいて肩を震わせ、膝の上で拳を握りしめた。
「俺は、彼女の誕生日に……自殺するような男なんだから」
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