ラン僕ギーニ

5/5
前へ
/16ページ
次へ
 少年は顔色を変えず、また質問にも答えず、一度ゆっくりとまばたきをした。 「あなたは、どなたかに、何か言い残したことがあるんじゃないですか?」  つぶらな瞳が、すべてを知っていると言うように、じっと奏多を見つめている。  言い残したことなど、あるに決まっている。ずっと支えてくれた妻を、最悪な形で遺してきてしまったのだ。  けれど。 「何も、言えるわけないだろ……」  あんなに心配してくれたのに。あんなに尽くしてもらったのに。遺された彼女が今どんな気持ちでいるのか、考えるだけで胸が潰れそうだ。  奏多はうつむいて肩を震わせ、膝の上で拳を握りしめた。 「俺は、彼女の誕生日に……自殺するような男なんだから」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加