15回目の誕生日

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 二  目を覚ますと、布の天井が見えた。ゆっくり上体を起こして周囲を見ると、家とは全く違う綺麗な部屋の、天窓つのついたベッドの中に私はいた。  「お目覚めにございますか?」 すぐ近くで声がして右側を見ると、そこには眼鏡をかけた背の高い男が立っていた。私は彼の耳を見て驚いた。 「びっ、ビューマン……」  ビューマンとは、何らかで獣の血が交ざった突然変異の人間。その耳は獣のそれになり、尻尾まであるが、他は人間の身体そのものだ。    そういう種族が存在すると話には聞いていたが、実際目にするのは初めてだった。  彼は続けた。 「拐ってしまい申し訳ありません。私は、デゴス国の執政官が一人、カイにございます」 「どうして私を拐ったの?」 カイと名乗った茶色い獣の耳をした男につられて、私は冷静に聞いた。彼は無表情のまま答えた。 「とある事情で、我々は国王の妃となるものを探しておりました。手荒な真似をして申し訳ありません」 「うん……え、私が王妃?」 私が驚くと、カイは低く答えた。 「正確に言えばです。数名の貴族の娘の中から最も相応しい者を選び、その方に王子の妃となっていただきます」 「じゃあ、私以外にも何人もいるわけ。その王妃候補」 「はい。貴女を含め、五人おります」 「五人……」 私は驚いた。ふと、いつか見かけたフレディ王子の姿が頭に浮かび、私はカイに言った。 「悪いけど、私はここの王妃になんかなりたくないわ」 「何故です?」 「私は、フレディ王子をお慕いしているの。それに、顔も知らない王様の妃になんてなりたくないわ」 私が言いきると、カイは姿勢を直して言った。 「……失礼ながら。我々は他国と争いはしたくありません。それ故、我が国の王妃候補として貴女方を拐っていく事は、事前に彼女達のご家族とその国王には許可を得ております」 「え?」 「本人には、当日まで秘めているよう命じてあります故、ご家族や国王は責めないで下さいませ」 カイは頭を下げた。私は驚いて、すこし俯いた。  今朝。姉や父がおかしいとは思っていた。私の誕生日でもあるこの日に、フレディ王子に会えないのを哀れみ、悲しそうな目をして笑っていたのだとばかり思っていたが、それは違っていたのだとわかった。  カイは続けた。 「それと。我々も、王妃候補を選んでおります。よう」 「え?」 「我々が選んだのは、貴族の長女以外の若い女性にございます。貴女様も、それに該当するのでは?」 「えぇ」 他にも色んな条件から選んだのだとカイは話していたが、私にはその声は入ってこなかった。  わかっていた。国王の妃となりうる女性は、貴族の長女の内で、選ばれた1人のみだと。貴族の長女であれば、妃になれなくとも、側室にはなりうるが、それ以外は対象外であることを。私は、フレディ国王に選ばれる対象ですら無いのだと言うこも。  それを知った時、私はプルーンを恨んだ。しかし、彼女の美しさや優しさ、賢明さをよく知っているからこそ。そんな彼女が長女でよかったとも思っていた。フレディ国王の妃なんて、プルーン以外にありえない。そう思うようになった。  「それに、顔も知らない内に嫌われる謂れもありません」 カイは低く言った。その声で我に返った私は、彼を睨んで言った。 「……悪かったわね。それで? どうしたらいいの?」 「そうですね。今日はおそいですからお休みくださいませ。明日から、妃の訓練をいたします」 「わっ、わかったわ」 私はベッドの中に入った。するとカイは私に背を向け、数歩歩いた。 「ちょっと、どこ行くのよ。王妃候補なんだから、私に護衛は?」 「護衛ならついておりますよ。そこに」 カイは私の左側を示した。見ると、すぐ近くにカイより大柄な男が立っていた。 「うわぁっ」 「貴女様の護衛をさせていただきます。アーロにございます」 アーロと名乗った黒っぽい獣の耳をした男は一礼した。声からして、私を拐ったのは彼だ。 「へぇ……よろしく」 私は返事をして布団の中にもぐり、眠りについた。
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