盗まれたものは見えない

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人気の無い森の奥に、男の住処がある。 誰も寄りつかないほど不気味な場所のため、見つかることがなかった。 そんな住処で、男は盗んできた物を手に、鏡の前に立つ。 血まみれの服を気にとめることなく、男は自分の顔へ、盗んだ物を持った手を重ねる。 すると。 「ふふっ。まーたいい顔見つけちゃったナァ」 男の顔は一転、あの路上で出会った人物の顔へと変わった。 「顔の上書き、そろそろ手慣れてきたな。次はこの顔でこの人の人生を頂こうか」 にやりと笑う不気味な男。 足下にはいくつもの新聞が落ちていた。そのうちのひとつを手に取って目を落とす。 『またしても泥棒現る』 『盗まれた物は顔であると警察発表』 その見出しから始まった記事には、詳細な内容が書かれているものの、男が全てを読むことはない。 つまらなさそうに新聞を投げ捨てる。 「全く警察も発表遅いよね。そんなんだから、僕に顔を盗られちゃうんだよ。あ、警察のトップの顔も僕が盗ったんだっけ」 再び手を顔にかざすと、顔が幾分か歳のいった男へと変化する。 「これが警察庁長官の顔だったかな? 久しぶりに出勤してみよっかなー」 まるで子供のようにはしゃぎ始めた。 「さあ、明日も楽しい日になりそうだ」 数多の顔を盗った男は、楽しそうに笑った。 終わり
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