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十九階でエレベーターを降りて、カードをかざして執務室に入る。
私のデスクまで行くと、隣のデスクがまっさらになっていることに気が付いた。
私の隣は、アヤカの席だったはずなのに。
アヤカの使っていたデスクトップパソコンやアヤカの私物である何冊かの本、ティッシュケースなど所せましと並んでいたものはキレイさっぱり消えてしまっていた。
私が数日来ない間に何があったんだと呆然としていると、
「石上さん、正式に退職するらしいです」
後ろの席に座る片瀬くんの声がした。
石上さんこと、石上絢夏は、私の二つ下の後輩だ。
以前、一緒のプロジェクトを経験しているので知らない仲ではない。ただ、去年から参画していた別プロジェクトで病んでしまい休職に入っていた。
「そっか」
私は片瀬くんに振り返ることはなく、自分に言い聞かせるように呟いてから座った。
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私の働く会社は毎年、いや毎月のように誰かが辞めていく。別にウチがブラック企業というわけではなく、IT業界で働いていればよくあることだ。
きつめのプロジェクトに入っていると、身体が先か、精神が先かはわからないが病んでしまって辞めていく、そんな光景は日常茶飯事だ。
辞めていく人たちを、いちいち感傷的に見送っていたりすると、今度はこちらの精神が持たない。
だから私は「そっか」で終わらせて、残された者ができることとして、積みあがったタスクをこなし、納期までにリリースできるようプロジェクトを進めていく。
こんな私も今ではIT業界五年目。近頃は、涙を流さなくなった。
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