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11月7日、夜
*
誰もいない静かなロビーを抜けて、部屋までエレベーターで移動する。ペットボトルとおにぎりとコンビニスイーツの入ったエコバッグを片手に、私は部屋のドアを開ける。
真っ暗な部屋の中は、ずっと誰もいなかったことを示すかのように空気が冷えている。玄関にあるシューズボックスには靴がすっきりとキレイに並んでいた。それはたぶんイイことなのだけど、いまの私には苦笑しかできない。
廊下を歩き、リビングに入ってから電気を点ける。
LED照明は明るい。
そのせいで、この部屋のレイアウトの不自然さが際立っているような気がする。
窓際に何もないスペースがある。フローリングだけがある。
なぜあそこだけ何も置いていないのかと初めてこの部屋に来た人なら問うかもしれない。
「ちょっと泥棒に入られちゃってね」
そう言えば一人ぐらいは信じてくれるだろうか。私はエコバッグを椅子に引っかけて自虐的に笑う。
隣の部屋に入ると、また妙な空白があちこちが目に映る。
半分以上スカスカの本棚、昨今は聴かなくなったとはいえガラガラのCDラック、そして、クローゼットを開くと、服がゆったりとかかっていた。いつもギッチギチに詰められていて、たまに出そうとする服はハンガーをかき分けないと出すことができなかったのに、いまは軽々とどんな服でも出しやすくなっている。
こんなにも部屋のあちこちに空白があるのは、もちろん泥棒が入ったからではない。
理由は、単純だ。
つい先週まで住んでいた彼氏、いや今は元カレがこの部屋から出て行ったからこんなにもスカスカなのだ。元カレと一緒にいろんなものがこの部屋から消えてしまったのだ。
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