軍師の嫁取り 8~戦の前には絆あり~

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「黄夫人!一体、どうされたのですか!!」 夫の声に、妻、月英の動きは、ぴたりと止まる。 「ありゃ、旦那こそ、どうなされました?いやね、騒ぎを起こした詫びだと言って、うちの賭場を儲けさせてやろうと、姐さんが。まったく、有り難い話で」 賭場の親分、全陵(ぜんりょう)は、うすら笑みを浮かべた。 「うーん、博打、というものは、本気になると、難しいものですねぇー、これでは、(わたくし)手元がなくなりますわ」 「よし!奥方、手元を賭場から、借りましょう!勝って返せば、良いだけの話!親分、勘定場へ、お邪魔しても?」 と、徐庶(じょしょ)が、言った。 「ちょっと、待ってくれ、徐庶よ!それでは、負け続きの場合どうするのだ?」 孔明が、渋い顔をする。 まあまあ、そんな野暮なことは、ここでは、通じないんだよ!と、徐庶は、孔明をバシンと叩いた。そして、 「孔明、お前が、取り返せ」 と、双六勝負を勧めた。 「ならば、私と、勝負しませんか?なかなか、面白そうなお方、それに、掛け金も、豪勢な物になりそうですしねぇー」 どこから現れたのか、細身の目付きの悪い男が、チラチラ、月英へ視線を送りつつ、孔明へ勝負を仕掛けてきた。 「はあ、私とですか。しかし、博打など……」 「ですが、旦那、姐さんは、負け続き、賭場から持ち出ししてんですがねぇ」 何故か、昼間は、孔明達を、ちやほやしていた賭場の若い衆が、手のひら返しで、接して来る。 「なるほど、夜の賭場は、面白い、というのは、こう言うことですか。皆、なかなか、殺気だって、何がおこるかわからないと、そうゆう、ことだったのか。うーん、なかなか、深いなぁ」 なにやら、孔明は、感慨深げに頷いている。 「まあまあ、こいつは、明後日の方向からやって来た、あまちゃんですから、兄さん方、ひとつ、お手柔らかに」 徐庶は、へらへらと、皆に、媚を売っている。 「じゃあ、取りあえず、親分、軍資金を、もう少しなんとか、お願いしますよ」 おうさなぁーと、言いつつ、やはり、月英を見る全陵へ、徐庶は、それじゃー、勘定場で、と、奧へ行こうと、話を進めた。 「では、孔明よ、奥方をとられぬ様に、頑張れよ!」 と、激を飛ばしながら、こっそり囁く。 「お前の相手、つけてきたやつだ。それも、例の行商人の仲間だな」 「徐庶よ、お前も、そう思うか。うーん」 うーんって、なんだよ!と、徐庶は、呆れつつ、じゃあ、頑張れよと、孔明に声をかけ、全陵を追って勘定場へ向かった。 「奥樣ーーーー!まずいですよーーー!だから、帰りましょうって言ったのにぃ!」 「だってねぇ、なんだか、わくわくしちゃって、それに、この、男臭さの割に、セコイ事をやってるでしょー、なんだかなぁーと、気になっちゃって、もう少し、見てみましょうか?が、今に至るわけなんだけど……」 月英は、お付きの菜児へ、言い訳がましく、言った。 なにより、ここは、この菜児の実家、何もないだろうと、月英も、油断していたのだ。 が、見事、牙を向けられた。 「ですからーー、それが、賭場なんですよー!あたいが、いるからって、そんなに、甘くは、ないんですからねー!もう皆、奥様を持ち出し分の代わりに、売り飛ばそうとしているし!」 「なるほど、なるほど。勝てば、良い、と、いうことか」 菜児の泣きごとに、孔明が、反応した。 「わかりました。双六しか、できませんが、それでよければ、お相手いたします」  孔明の調子外れの言葉に、相手は勝ちを見たのか、ふふ、と、笑うと、やおら、顔を近づけてきて、意味深なことを言った。 「どうです?一国を、かけてみませんか?あなたになら、できるはず」 ん?と、孔明は、首を傾け、 「ですが、国というものは、私のものではありませんからねー。それに、私が勝ったなら、北のお国は、どう出てくるのでしょう?あー、なんだか、勝っても負けても、面倒な話になりそうですねー」 はあー、と、孔明は、大きく息を吐く。 たちまち、男は睨み付けてきた。 「まあ、とにかく、勝ちましょう!黄夫人の身が、なにやら、危ない雰囲気のようですから」 言って、孔明は、賽子(さいころ)を、握った。 「私から、で、かまいませんか?」 あー、それにしても、久しぶりだから、勝てるかなぁーというか、賽子って、どこへ転がせばよいのでしょうか? などなど、周囲の者が呆れ返り、爆笑するほど、どうしようもない事を言いながら、孔明は、ぎこちなく、賽子を転がした。
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