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「ちょっと買って来る」
10分後、僕は店から出てきた。
「けっこうな値段するんだな。小遣いが少ないから厳しいよ、この出費は」
「でも、お姉さんと、お腹の赤ちゃんが喜ぶわよ」
「ん、そうだね」
優しい鈴蘭だが、僕には彼女が何か、怒っているように見えた。
この時の鈴蘭の厳しい眼差しが、僕はずっと気になっていた。
駅に到着。
僕と鈴蘭は上りと下りの電車に分かれる。
「じゃあまた明日」
「うん、バイバイ」
先に鈴蘭が乗る電車が来た。
空席があったらしく、鈴蘭は座ると、窓の外の僕に手を振りながら電車は発車した。
いつも想うんだけど、先に鈴蘭が電車に乗って行ってしまうと、僕はすごく寂しい。
いつまでも、走り去る電車を見送っている。
「ガキじゃん、これじゃあ」
僕の乗る電車が来た。
下りだから混んでいる。
ぎゅうぎゅう詰めの車内は、やはりサラリーマンが目立つ。
スーツを着て、ビシッとネクタイを結んでいて、何だか苦しそうに見える。
“ネクタイを早く取りたいだろうな”
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