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「す、すみません……堤下くん……」
しばらく続いていた夫婦喧嘩が終わったあたりで声をかけた。
ちなみに喧嘩の結果は嫁の勝利。
助けなければ俺が無事では済まなかったことは目に見えているので、旦那は引き下がるしかないって感じだった。堤下くんはそれをわかっていてやっている感じがするので、相変わらず頭が良いなと思う。
「俺のせいで……その……いろいろ迷惑を……本当にすみません……」
「気にしないで。君が無事で何よりだよ」
そう言って微笑む堤下くんは本当に天使のようだ。
綺麗で清廉潔白で、それなのにたまに見せる一面がどちゃくそえっちなの、まじで最高です。
あ、やべ。また本音が出てきた。
「怪我はしてない?」
「う、うん。大丈夫」
「それならよかった。──にしても、だね」
「ああ」
「こんな危ない場所があったんだ。知らなかったな」
「俺も把握していなかった」
「一度構内全体を確認した方がいいね。もしかしたら他にもこんな場所があるかもしれないし」
「ああ、俺もそう思っていたところだ」
会話ができたのは一瞬だけ。
すぐに、まるで息をするように自然に2人の世界に入ってしまう熟年夫婦に、尊い以外の感情が湧かない。
は〜〜、この2人死ぬほど絵になる……絵画かよ……どっかの国の王子様とお姫様みたい……うつくしい……。
(この2人の並びをこんなに間近で見られるなんて恐悦至極………でも、欲を言うなら、もっと………)
いやいやいや、と浮かんだ思考に首を横に振る。
流石にそれは欲張りすぎではなかろうか。
それに、正直、キスした直後のあの鋭い舌打ちが風紀委員長のものだと気づいてから、これ以上この場で堤下くんに声をかけるのは控えた方がいいというのもわかっている。
で、でも。
こんな機会、たぶん、もう一生来ない。
「あの……堤下くん……」
そう思ったら、いつの間にか溜まっていた唾液をごくりと飲み込んで口を開いていた。
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