嫌いなもの

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「……事故?」 「そうだ!事故なんだ!あの時は──」 恋人に浮気を疑われて弁明するかの如く、会長が必死の形相でペラペラと喋り出す。 しばらくしてから「……そういうことなら……」と雨色が渋々納得の色を示すほど喋り尽くしてくれた会長のおかげで、どういう経緯でキスしたのか詳細まで知ることができた。 なんと、事故と言うだけあって本当に事故だった。 会長が床に躓いて事故チューしてしまったらしい。 (この2人チューしていたのかッ。エッチだなッ。控えめに言って最高ッ) ああッ、妄想が捗りますッ。 弁明中に『掠っただけだ!』と会長は言っていたけど、掠っているならそれはキスです。異論は認めません。 あと『……会長〜まさかそれでオナったりしてないよね〜?』と会計にジト目で見つめられて、会長が『っ、あぁ!?』と動揺していたので、絶対これまでに一度はオカズにしていること間違いなし。もう最高ッ。 「じ、事故なら………」 「あ?」 「なに〜?」 頭の中では大興奮しつつも、ほとんど無意識に口が動いた。 普段の俺だったなら、こんなに機嫌が悪そうに会長と会計に目を向けられたら、怯んで「いえ……何でもありません……」とか言ってすぐに口を噤んでいたことだろう。 それなのに、今の俺はアドレナリンがドバドバに出過ぎていた。つまり無敵状態だった。 「じ、事故なら、それはノーカンですよね……?だって俺は、堤下くんのことがそういう意味で好きだし、それでキスしちゃったんですからやっぱり責任を取るしかないです!」 「はあ〜〜〜〜!?!?」 俺は一体何を言っているのだろうか。 恐ろしい腐男子魂だ。 底なし沼の欲求がどんどん湧いてくる。 (ここがキスしているなら他もしているだろッ、吐けッ、吐いちまえッ)と第二の自分が暴れまくっている。 ハラハラ焦っているもう1人の自分よ、安心しろ。 もうどう頑張っても取り返しがつかない。
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