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堤下泉side
酷い目に遭った。
ほんとうに酷い目に遭った。
まあ、ボクにも責任はあるんだけどねえ。
早々にあの彼が腐男子であることを見抜いた上に、その時点で抑え込むこともできたにもかかわらず、それをしなかったんだから。
だって、観察対象と関わるのが断固拒否の平凡くんとは違って、自らを犠牲にして餌になるというあまりにも捨て身のタックルに、切り捨てるのが可哀想になってしまったんだもの。
でも、今ならはっきりと言える。
腐男子に情なんて要らない。
(………それにしても)
案外悪いことばかりというわけでもなかった。
実は思わぬ収穫があった。平凡くんのアレだ。
まさか覚えてるとは思ってなかったから、正直ボクも驚いてる。いよいよ君が相当な演技派なのではという可能性がボクの中で生まれ始めそう。……身近な人を疑うのは、少し気が引ける、なあ。
『もも、おいしー…』
まあ、それは後でいいとして。
当時の状況といえば上記の一言に尽きる。
『もも美味しい』『もも美味しい』とそればっかり言いながらずっと唇に吸い付いたりかぷかぷって噛まれたりし続けたから、完全にボクの唇を桃と勘違いしてるのはわかってた。
だから、熱が高すぎて意識が朦朧としてるんだろうなと何も言わずに黙ってあげてたというのに。
まさか全部覚えてるとは。
『反省した?』
『しっ、しましたしました!しましたから!』
『そう。じゃあこれくらいで許してあげる』
『あ、ちょっと思ったんだけど、キスしてた時間は俺が一番長いし濃厚具合で言うと俺が一番じゃね? って、痛ッ!!!すみませんすみません!もう喋りません!』
たしかに時間的には平凡くんとのキスが一番長かった。でも、どのキスが一番濃厚だったかと言われると、それはもう一択だ。
平凡くんとのキスは、突き飛ばすには可哀想でそのまま受け入れてたとはいえ、舌を入れられないように強固なまでに唇を引き結んでた。だから、本人的には風紀委員長のキスが一番深い。
まあ、それはどうでもいい話か。
(とにかく、とてつもない羞恥プレイを味わわされた気分だ)
あの隠れ腐男子くん許さない。
あの彼が腐男子だということを平凡くんが知らなかったということは、周りに腐ってるのを秘密にしてるんでしょ。
それを逆手にとって、『次ボクで自分の欲を満たすような真似をしたら、あの告白を本当のことにして教室で振ってあげるから』と笑顔で言えば、真っ青な顔をして『エッチです最高!あ、やべ間違えた。すみませんもうしません!』と言われた。
誰がえっちだよ。
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