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きみがいる朝へ
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“朝一本煙草を吸うことは、虹花の癖のひとつだ”
渡された台本はそんな一文から物語をはじめていた。
「煙草とライター。都築監督はリアリティを求める人だから撮影が始まる前には吸えるようにしといて」
「あ、は、はい、わ、わかりました」
「明日は6時に迎えにくるから」
腕時計を確認するとちょうど日付けが変わった頃だった。台詞を覚えて、これを吸う練習をして、お風呂に入って…3時間は寝られる。
送ってくれたマネージャーにお礼を伝え、オートロックをくぐりひとり暮らしの部屋へ帰宅。
手洗いうがいをして念入りにメイクを落とす。
作り溜めしているゆで卵を冷蔵庫から取り出して口に含みながら受けとりたての台本を開いた。
わたしが演じるのは物語の主人公・園田虹花。
オーディション前に読んだ原作本である程度この子の人物像は理解できている。
わたしの実年齢より6つ若い大学生になりたての未成年。校内では優等生として振る舞っているけれど、とある理由で陰った思考を持ち合わせている。
夜にだけ県境の繁華街に出向き身体を触らせてお小遣いにしては高いお金を稼いでいる堕落的な人として描かれていた。
ビニール袋から煙草とライターを取り出す。
ハードケース、タール値の低いそれは、コンビニでアルバイトをしていた頃一番角にいた銘柄。
煙草を吸うのは初めてで、緊張しながら、吸い方を少し調べたりした。
虹花は朝起きたてにこれを口に含む。
朝ごはんの代わりだそうだ。
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