きみがいる朝へ

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・ 「えんなちゃんって恋愛とかするんですか?」 次の作品でも共演することになった、トゥルーで実蕾役だった都村れんが撮影の最中で訪ねてきた。 「し、し、しなそう、ですか?」 「いや、むしろいつもしてそうだなって思います」 「そ、それ、は、遊んでると…?」 そのイメージを持たれるのは初めてだったので肩をすくめ、身に覚えがないことを訴える。 すると彼は慌てた様子で「ちがうちがう」とこちらの解釈を否定した。 「そうじゃなくて、なんというか…演じてる役に恋してる感じがします」 女優をしている人に対してその台詞は誉め言葉だと思う。 だけどそれはどうだろうか。ピンとはこない。 「俺は撮影が終わればその人格は抜けて自分に戻ります。だからえんなちゃんみたいにのめり込んで演じられる人って憧れるんですよね」 のめり込むのが良いことかといえば答えは人によって違う。 役と自分を重ねた結果、うつのような症状が出たり、ほかの作品に影響が出たり、私生活に影響が出たり、最悪自ら死を選ぶ人も、この業界では多くいる。 「わ、わたしは、あの、に、虹花役で実蕾に惹かれてくとき、同じように、実蕾に、恋してました」 わたしは役に恋をしてるんじゃなく、その役を通して見つめた誰かに感情が動いてく。 その点では言われた通りのめり込むタイプなんだろう。のめり込むというより、その人になることを望んでいる。 「うれしいです。でもえんなちゃんが俺に惚れてくれたわけじゃないんでしょ」 「あ、はあ、まあ…はい」 「ですよねえ」 そうだね。 きっとえんなは恋なんてしてなかった。 ただ誰かになることを望んでいた。 だからわたしも、誰かに恋をしたりはしない。
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