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「あ、あ、朝日ちゃんが、ぼく、ぼくを助けるように仕向けた…って言ったら、しん、信じる?」
それは突然だった。
「なにそれ。どうやって?」
仕向ける、もなにも、わたしはわたしで自分の行動を選択してきた。だからえんなをいじめから庇ったことはわたしがしたこと。
それに彼が誰かの行動を操るような器用なことをできる人だとは思わない。
だけど彼は、たどたどしい言葉で、語り出した。
物心ついた頃から、自分ではない他の誰かになりたいと思っていたこと。
誰かの真似をしたり、等しくなったり、その存在そのものになろうと、自分ではない何かを演じてきたこと。
えんなは今も、わたしが庇ったり一緒にいたくなるような弱い存在を演じていること。
こんなに喋る彼は初めてだったし、内容も、戸惑った。
他の誰かとして生きたいなんて思ったこと、わたしは一度もない。
自分は自分でしかいられないと思っていた。
わたしが知っているえんなは。
わたしが守ったえんなは。
「ぼくは、朝日ちゃんに守られる誰かになりたくて」
意味がわからない。
えんなはどうしてその存在に焦がれたんだろう。
今喋ってるのは誰の声なんだろう。
「……ごめん、なさい」
今までそう生きてきたのに、どうしてきみは謝ったんだろう。
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