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性別は同じにできなかったけど、彼はきっと性別なんて関係なく生きていたと思う。
だからわたしはわたしのまま、えんなとして、女優として生きることに決めた。
この話は誰にもしていない。
「都築監督がまた起用したいって言ってくださってるの。あの人にオーディション無しで抜擢されるのはえんちゃんが初めてだよ。おめでとう」
都築監督だけが、わたしが自分を切り離していることを、知っている。
「どう、して、わたしを…?」
その夜一通の電話とともに寒空の下呼び出され、そこで台本を渡された。
次の物語は高校生で、いじめを受けている子を助けて自分がその標的にされ壮絶な経験をする子の物語。
一通り読ませてもらってから、これは…と顔をあげる。
「えんなはさ、よく自分を助けてくれた女の子の話をしてくれた」
「え…えんなは、わ、わたしを、そうなるように、仕向けたって言ってました」
見事にレールの上を歩かされただけ。
それでも良いと思った。
えんながわたしに道筋をくれた。それは何も持たないはずの鈴屋朝日にとって、やっと未来を視れた気がした。
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