きみがいる朝へ

13/15
前へ
/15ページ
次へ
・ 戸惑いはあった。 自分が誰かの意思によって無意識に行動させられていた、なんて、あまりピンとこない。 それでもえんながそう言うなら。 特別な何かをもらったような、そんな気持ちになって。 「謝らなくていいよ」 そう伝えると、えんなは、朝日ちゃんってへんな子だよねと困ったような顔をした。 それよりどうして打ち明けてくれたんだろう。 そう思っていると「一生誰かとして生きたいんだ」と言われた。 たどたどしく紡がれる言葉。 それも、誰かの気持ちなのか。それともえんな本人の気持ちなのか。 もはやどちらでもよくて、わたしはもっと、彼のことが知りたい。 将来は自分になる暇もないくらい誰かになれるように演技の仕事をしたいとずっと思っていたことを教えてくれた。 きみの生きたいように生きてほしいと思った。 それなのに。 「でも、ぼ、ぼく、ぼくはけっきょく、じ、自分の道、を、歩かされるんだ」と悲しそうにつぶやく。 「どういう意味?」 「…病気が、見つかって」 「は……」 誰かになろうと生きていた彼にとって、三日月えんなとしてそんな目にあうことは、きっと苦痛だったんじゃないかな。 勉強を教えてくれた人がいじめられているところをたまたま助けただけ。 またそうならないように一緒にいただけ。 それも、そうなるように仕向けられていたとかなんとか。 だけどわたしは、自分が思っていた以上に、えんなとの時間が好きだったのかもしれない。 えんなの生き方に、無意識に惹かれていたことを、実感した。 彼が病に侵されている。 彼を失う可能性がある。 それが悲しくて、淋しくて、こんな気持ちになる自分のことが不思議だった。 「それならわたしが、えんなとして生きる。えんなになるよ」 「…ばかだね」 その決断をした時、えんなは初めて笑ってくれた。 彼がそのあとに自殺を図り、意識が戻らないまま眠り続けるようになることも、 わたしが彼の夢を辿っていることも、 彼の病が治る未来がくるかもしれないことも、 どれもこれも、彼が演じたシナリオ通りに過ぎないのかもしれない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

151人が本棚に入れています
本棚に追加