乙女地獄

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「お邪魔します」  美雨の家に上がり、玄関から入って右にある階段に上り、部屋に入る。 「すごい…」  美雨の部屋にはミシンがあった。そして、華やかな衣装がトルソーにかかっていた。 「えへへ。アーデルハイドの衣装だよ」  絵を描くだけではなく、コスプレ衣装まで作れるのか。私は、美雨の器用さに感嘆する。 「お母さんね、洋裁が好きでね。それであたしにも教えてくれたんだ」  私は衣装をまじまじと見た。衣装は細部まで作りこんであった。アーデルハイドは私が考え出したキャラクターで、絵に起こしていないため、具体的なイメージがない。美雨はそれを、イラストとして起こしただけではなく、衣装という形で三次元にも起こしてみせた。  間違いない、美雨は本物だ。改めて驚嘆すると共に、嫉妬心が芽生えてきた。 「乃良、ちょっといい?」  衣装を眺めていた私に向かって、美雨が声をかけてきた。手には、メジャーを持っている。 「乃良用の衣装を作ろうと思って。ディートヘルム様の衣装なんだけど…」  美雨は、私の方を見ながら言った。 「あ、ごめんなさい。私なんかが、その、衣装を作ってもらっても……」 「何言ってるの。アーデルハイドの傍にディートヘルム様がいないとダメでしょう」  美雨は微笑みながら、私にタブレットを見せてきた。そこには、貴族らしき服を身にまとった金髪の男性の絵が描かれている。 「美雨ってやっぱり絵が上手いよね…これも作るの?」  絵は細かく描き込まれていた。これを再現するというと、骨が折れそうだ。 「もちろん!」  美雨は得意げに答えた。 「それじゃ、採寸します」  美雨は再びメジャーを手に取って、私の体の採寸を始めた。胸囲、胴回り、腰周りなど、事細かに測っていく。 「……」  美雨は真剣な表情で、黙々と作業を進めていく。  美雨の手が私の体に触れている、ふと、そんな事を考えてしまった。  いや、これはただ、採寸しているだけだ。それだけの事なのに、胸が高鳴るのを感じた。 「よしっ、終わり!」  採寸を終えた美雨は満足そうに呟いた。 「それじゃ、新刊作りに取りかかりますか」  美雨はタブレットを手に取って、それで原稿を描き始めた。私はというと、美雨が時折「これでいいかな?」と聞きながら、執筆中の原稿を見せてきたので、私はOKを出したり、時折、ダメ出しをしたりなどしていた。  そうこうしているうちに、帰る時間になったので、私は美雨の家を出ることにした。 「衣装、楽しみにしててね!」  帰り際、美雨が満面の笑みを浮かべながら手を振った。  ――帰宅した私は、夕食を済ませたあと、自分の部屋にこもり、新刊用の小説を執筆していたが、どうにも筆が進まない。 「美雨は、私のことを、どう思ってるんだろう…」  私は、採寸された時のことを思い返していた。美雨の体が、私の体に密着したとき、思わず息を止めてしまっていた。美雨の体温が伝わってきて、心臓の鼓動が早くなったのを感じる。  あの時、私がどんな気持ちだったか、美雨は知らないだろう。 「はぁ~」  私は、大きなため息をついた。
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