乙女地獄

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 ――日曜日、私は美雨の家に向かう。インターホンを押すと、美雨が出てきた。 「いらっしゃいませ!今、開けるね」  美雨は笑顔で私を迎え入れた。階段を上がり、美雨の部屋に入る。 「これが、ディートヘルム様の衣装だよ!」  美雨が衣装を持ってきて、私に見せた。 「わー……凄いな……」  私は感嘆の声を漏らす。衣装は細部まで丁寧に作られていた。衣装の色は黒を基調としていて、所々に銀色の刺繍が施されている。 「これ、どうやって作ったの……?」 「まず、型紙を作って、それを布に写して…」 「簡単そうに言うけど、まず型紙作れることが凄いから!」  私は改めて衣装を見た。実に、よく出来ている。  本当に、ディートヘルムが身にまとっているものではないかと思えた。 「それ、着てみて」 「本当に着ていいの?」 「「着ていいの?」って、乃良のために作ったんだからね!」  美雨はむくれた。私は、そういうところも可愛いなと思ってしまった。 「はいはい、わかりました。では早速」  私は衣装に手を通した。私用に作ったということで、サイズもピッタリだった。 「ねぇねぇ、乃良も見て見て。本当によく似合ってるから」  美雨は、姿見を私の前まで引っ張ってきた。 「本当だ、すごい…」  私の目は釘付けになった。実際に着てみると、印象がまるで違う。 「じゃあ次は、メイクだね」  美雨はメイク道具を持ってきて、私に化粧を施した。 「よしっ、メイク終わり!どう?感想聞かせて!」  美雨は期待の眼差しを向ける。私は、鏡を覗き込んだ。  そこに写っているのは、気品さと凛々しさを併せ持った、正に、二次元からやってきたような美形だった。 「すご……なんか、自分が自分じゃないみたい」  私は、思わず呟いた。  それを聞いて美雨は「えへへ、すごいでしょ?」と、得意げになる。 「これで、完成!」  続いて、美雨は金髪のウィッグを持ってきて、私の頭に被せた。 「あぁ…ディートヘルム様…」  私の姿を見て、美雨は、すっかり惚れ込んでいた。私も、姿見で再度、自分の姿を確認する。 「なるほど…これが2.5次元か…」  そこに写っているのは、まさにアニメの世界の住人だった。  具体的なイメージがないキャラであるにも関わらず、しっかりと生身の人間で具現化してみせた。美雨の手腕には脱帽するしかない。 「さすが美雨、すごいよ!」  私が褒めると、美雨は照れくさそうに頬を赤らめた。 「では、次は私が、アーデルハイドになります。ちょっと待っててね」  美雨はいそいそと、着替えを始めた。続いて、メイクをする。  私は待っている間、自撮りなんかをしていた。  コスプレは初めてなのだが、キャラになりきるというのは、こんなにも楽しいものなのか。私は妙なテンションになってきた。 「おまたせー」  美雨の支度が終わったようだ。  そこにいたのは、アーデルハイドだった。  栗色のウィッグを被っており、波打った髪が肩にかかる。  衣装は、以前に見せてもらっているので、どういう感じなのかはわかっていた。でも、実際に着ているところを見ると、印象ががらりと変わる。  可憐でありながら、内には芯の強さを秘めた、そんな佇まいであった。 「すごいよ!ほんとにすごい!」  私は興奮していた。それにしても人間というのは、興奮すると語彙が貧弱になるようで、さっきから「すごい」しか言ってないような気がする。  美雨は「ありがとう」と言って微笑んだ。  そして、私たちはスマホで撮影会を始めた。 「コスプレって初めてなんだけど、楽しいね!」  私は美雨に言った。  すると、美雨は私に艶っぽい目線を送り、そっと手を握った。 「ディートヘルム様…」  美雨はアーデルハイドになりきっていた。私はその手を握り返した。 「アーデルハイド…」  私はディートヘルムになりきった。妙なテンションになっていたせいか、羞恥心よりもその場のノリに合わせねば、という思いの方が勝った。 「ディートヘルム様……」 「アーデルハイド……君は美しい……」  私たち二人は見つめ合い、ゆっくりと唇を重ねた。それは、神聖な儀式のように思えた。 「愛してる……」  私は囁くように言い、再びキスをした。今度は舌を入れた。美雨もそれに応えてくれた。  私たちは、しばらく舌を絡めるキスをする。 「ぷはぁ」  唇を離すと、舌が糸を引いた。 「少々、お待ちくださいませ」  美雨は私から離れ、ガサゴソと物音を立てた。探し物をしているらしい。 「お待たせいたしました」  探し物は終わったようだ。持ってきたものを見たが、それがなんなのか、そのときはわからなかった。 「ディートヘルム様、アーデルハイドを抱いてください」  そう言いながら、美雨は私に、ベルトのようなものに、ディルドがついたものを差し出した。
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