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冬晴れの空の薄く明るい、透きとおった青色の清潔さは空気にもあらわれていて、深く吸いこむとしんと綺麗な冬のにおいがした。びかびかと星が強い光を放つこともなければ、光線にすべてが呑みこまれていくような想像をして怖がるようなこともなく、朝は安全に訪れる。ずる、と鼻水が垂れてきて鼻を啜ると喉にひっかかって噎せた。
「おはよ」
挨拶が聞こえてきて肩を叩かれる。振り返るとつくりこみすぎた髪型をしたいつもの松木がいて、わたしの顔を見た瞬間にぎょっとしたのがわかった。家を出る前に寒いのを我慢して保冷剤を当ててきたものの目の腫れはうまく引いてくれなかったらしい。
「酷い顔だな。夢のなかの王子さまと喧嘩でもした?」
違うよ、喧嘩すらできないんだよ。答えをおもいうかべながら、口には出せなかった。けれど会話を不自然にとめてしまうのも憚られて、鼻の奥と喉のあたりがねちゃねちゃと気持ち悪いのを咳払いで追いだす。
「松木はさ、変だとおもわないの?」
「なにが?」
「夢の世界とか、そっちに住んでる幼馴染の男の子がいるとか」
「ははは、すっげえ今更じゃん」
松木はブレザーのポケットに手を突っ込んで空を見上げる。髪型も顔もすきではないけれど、背が高いから様になるなとおもった。
「お前がそう言うならそうなんだろうなっておもってる」
で、なにがあったんだよ? と松木は続けて、別になにも、とはぐらかす。嘘つけ、ぜったい泣いただろ、と松木に問いただされ、ドライアイなの、と無理のある言い訳をする。そのわりに目頭が熱くなって瞳が潤んでくる。ユキヤと会話がしたかった。なんでもないようないちにちをなんでもないまま過ごしたかった。そんなことを、これから何百回もおもうのだろう。誰かにユキヤを重ねあわせながら、ユキヤを見つめつづけるのだろう。贅沢で、満ち足りた不幸だ。
不意に頬に冷たさが当たり、冬の青空のもとで微かな雪が降っていることに気がついた。
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