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☓月31日。
0:00a.m.
12回、時計の鐘の音が鳴り響く。
ここは映像制作をするオフィス。
今、このフロアには入社二年目になる二十四歳の灰菁エラが一人で残業をしている。
「ああー! 今日も0時過ぎちゃったー! 0時ってことは鐘の回数はゼロでいいと思いますよ、時計さーん。この時代、空気をよんで秒針の音がしないのが普通じゃないのかーい!」と時計に八つ当たりをするエラ。
エラはアシスタントディレクターをやっている。12日後までに告知用の映像をつくらなければならない。しかしこのチームはすでに崩壊をしている。プロジェクトを仕切っているのはプロデューサーの原黒花姉、ディレクターは原黒妹花の二人。花姉と妹花は二卵性双生児でこの会社の社長でもある原黒母華の娘たちである。社長の娘たちである二人は、自分たちは仕事をせずに部下に仕事を丸投げして手柄を全て持っていくのだ。もちろん失敗した場合は責任を押し付け会社から追い出してしまう。
エラが何故、この会社で働いているのかというと社長の原黒母華を尊敬しているからだ。エラは学生の時から映像制作を趣味としてやっていた。映像を撮って編集をしてはインターネット上にあげる。そんなことを繰り返していると原黒母華社長から声がかかり、この会社に入ることとなった。尊敬する社長から色々と学びたい一心でどんな理不尽なことでも負けずに働いている。
0:21a.m.
「やばい、やばい! 終電に乗り遅れちゃう! 早く帰らないと!」と急いでオフィスを出て駅へ向かう。地下鉄への階段を降りようと階段に差し掛かったところで階段を上がって来た男性にぶつかってしまう。
「きゃ! すみません! 急いでいたもので」
「こちらこそ、下を向いてぼーっと歩いていて。すみません。お怪我は?」
「私は大丈夫です! アナタの方は?」
「僕も大丈夫ですよ!」
「それならよかったです! それでは終電に乗り遅れちゃうのでこれで!」とエラは軽く会釈をして小走りで階段を下りていく。
「あ、すみません! 落とし物ですよ!」と男性が声を掛けるがエラは見えなくなってしまう。
エラが落としたもの、それは……。
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