12時の鐘がなったら

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 ☓月9日。  0:00a.m.  12回、時計の鐘の音が鳴り響く。 「今日も0時を過ぎちゃったか……うん、終わらないな。締め切りは月曜の午前中ってことは金曜の今日は朝までコースでいっちゃうか」とエラがデスクチェアに座ったまま大きく背伸びをするとそのままデスクチェアごとひっくり返ってしまう。ドタンっ! 「痛い。もうなんで私のチェアだけ背もたれが腰までなのよー!」  ここのオフィスは座ったまま仕事をすることが多いのでエラ以外のデスクチェアは頭まで背もたれがある「ずっと座っていても疲れない!」がウリのデスクチェアを使用している。エラは仕事が出来、いつも明るく、ついでに容姿も美人のため嫌がらせで背もたれがほぼないデスクチェアに変えられてしまったのだ。もちろんその犯人は原黒姉妹だ。 「灰菁さん、大丈夫ですか?」と手を差し伸べる男性。 「王子(きみこ)先輩! お久しぶりです! すみません、こんな姿で……」とエラは王子の手を取り立ち上がる。  王子のぞみは私服の会社では珍しいスーツを着こなし、ガチガチに固めたオールバックをしている。作り手ではなくプロデュースする側として腕をふるっている。王子は出張が多く、会社にいることが珍しい人物だったりする。エラも王子に会ったのは数カ月ぶりである。 「灰菁さんは本当に面白い子だね」 「お褒めいただき光栄です!」 「助けたお礼ってことで、キスミー」とウインクをしながら人差し指で唇をトントンとしてキスのおねだりをする王子。 「紳士だと思った私が馬鹿でした」と遠い目をしながら首を振るエラ。  王子は見た目や振る舞いは紳士的なのだがチャラいのが欠点である。 「じゃあさ! 俺が作るのを手伝うよ! もしそれが成功したらキスしてくれる?」 「……」 「灰菁さんは本当に間に合うと思ってる? 間に合わせるだけじゃダメなんだよ? 今回の案件は会社の今後を左右するんだよ。一人で出来るの?」と真面目モードになる王子。 「……完成はできます。けど一人で考えて作ったものが良い作品になるかは自信がありません。だから誰かのアドバイスがあると嬉しいです」とエラは涙を流す。 「ここまで一人でよく頑張ったね。一人で頑張ることは悪くはないよ。けど自分ができることにも限界があるだろう。誰かの助けがほしいときはちゃんと言葉にして口に出さないとダメだよ」と王子は優しくエラの頭を撫でる。そしてどさくさに紛れてエラの涙にキスをしようとするが、エラは泣きながらも手を広げ王子の顔をわしづかみにする。  それから二人は意見を出し合いながら映像を作りはじめ、完成させた。  そして映像のプレゼンテーションの日がやってくる。
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