12時の鐘がなったら

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 ☓月12日。  10:50a.m.  ホテルの大広間を貸し切ってのパーティー。  ドレスアップをした何百人の人が集まる会場。 「ねぇ聞いた? ここの会社のお孫さん、結婚相手を募集中らしいのよ」 「聞いたわ! 私達にもチャンスがあるってことね! お坊ちゃまはどこかしら」  玉の輿にのろうと必死の原黒姉妹。  そこにドレスアップをした美しいエラが現れ、会場の視線を独り占めにする。そんなエラをみた原黒姉妹は持っていたワイングラスを落とすフリをして、エラのドレスにワインをかける。 「あら、ヤダ! ごめんなさいね、エラ」 「お姉さまったらおっちょこちょいなんだから。ワインを落とさないとね」と妹花はエラの頭から水をかける。 「エラ、そんなドレスじゃパーティーに参加できないわね」 「ここは私達がいるから、あなたは帰っていいわよ」  エラは涙を堪えながら会場の外へと走っていく。すると「あら、お嬢さんどうしたの? こちらにいらっしゃい」ときらびやかな着物を身につけた老婦人に声をかけられ、別室と連れて行かれる。 「そのドレスで歩かせられないわ。ここにあるドレスに着替えていきなさい」 「でも……見ず知らずの人にご迷惑をお掛けする訳には」 「うふふ。そのうち、知り合いに。知り合い以上になるわよ!」 (あらあら。美来(みく)ちゃんたらもう! 気が早いわね)  この老婦人の正体は未来の祖母、王士美来。  魔美は美来にも見えているのだ。 「え?」 「ああ、何でもないの! 独り言だから気にしないでちょうだい。さあ、選んで。その格好で街を歩いたら可笑しいでしょう」 「そうですね。すみません。えっと、このドレスをお借りしてもいいですか?」 「あら、その色でいいの?」 「はい! この色がいいんです!」 * * *  11:45a.m.  エマは美来にパーティー会場へ行くようにと言われ、向かうことにする。  パーティーが始まってから45分が経ち、最後にエマたちが制作した映像が流れはじめる。映像は無事に流れ、大きな拍手が湧き起こる。そこに映像を制作した原黒姉妹がつくってもいない映像の説明をはじめる。姉妹の空っぽの演説が終わると同時に王子がマイクを取り話し出す。 「この映像をつくったのは原黒姉妹ではありません。この映像をつくったのは灰菁エラです」と紹介されると、エラはスポットライトを浴びる。静まり返る会場。 「王子ったらクビよ、クビ! それよりあれがエラですって?」 「嘘よ。別人よ!」と会場の端へと逃げていく原黒姉妹。 「エラ、こちらに来て。この映像の説明とこの映像に込めた想いを聞かせてくれますか?」と王子がエラを呼ぶ。  エラはレースの黒いドレスを身に纏っている。化粧と髪型は老婦人が連れてきていたプロにセットしてもらい、いつもより輝いて見えている。エラはまっすぐ前を見つめ堂々と歩いていき、マイクを取り話し出す。  エラの演説が終わると拍手喝采が起こる。エラは会場と王子に一礼をして会場を後にする。ホテルの中庭には小さな洋風の庭があり、そこのベンチに座り休んでいると王子が追ってきて声をかける。 「エラ、お疲れ様!」 「先輩、ありがとうございました!」 「ね、成功したってことで! ホッペでいいからキスミー」 「だから……それ以外ならっていいましたよね。それに呼び方も下の名前になってるし、少し馴れ馴れしいですよ」とエラは背中を向ける。 「じゃあ、僕にだったらキスしてくれる?」と声のトーンが変わっていく。 「え? この声……」とエラが振り返ると、未来が目の前に立っている。 「えへへ。騙しているつもりはなかったんだけど、エラは仕事モードの僕が苦手っぽかったから変装してみたっていうか、これが本当の僕っていうか」 「……」エラはショックのあまり声が出せない。 「僕の本当の名前は王士未来。このパーティーを主催した会社の会長の孫なんだ。僕の名前は知る人は……みたいなのがあって、名前を変えて王子のぞみという名を名乗っていたんだ。王子は僕が映像の仕事がしたくて入った会社でね。実はプロデューサーという肩書も嘘で、僕の本当の名前を出されたくないなら……というのがあってずっと映像制作のゴーストでやっていたんだ。原黒母華がつくっていたものは全て僕がつくったものだったんだ」 「そうだったんですね。色々と全然気が付かなかったです。ごめんなさい」 「ねぇ、これからは二人で会社を作って、自分たちも楽しめる仕事をしない?」 「はい、したいです」 「やった! 決まり! 僕ね、ずっとエラが作り出す世界に憧れていたんだ! いつか一緒に仕事がしたいって思っていたんだ!」 「私もです。学生の時から憧れていて目標としていた映像を作っていた人が未来さんだったなんて。好きな人がずっと近くにいたのに気が付かないなんてバカみたい……」 「エラ、僕もエラが大好きだよ」 「私も未来が大好き」  二人は強く抱きしめあった。 「そうだ、エラ。これ返さないと」と未来は歪な形をしたガラスでできたピアスをポケットから取り出す。 「あ、それ! 無くしたと思っていたピアス!」 「駅でぶつかっちゃった時に落としていったんだよ」 「これとても大事なものなんです! このピアスは変な形に見えるかもしれないけど」と言ってもう片方のピアスを掌にのせるエマ。片方のピアスはネックレスにして常に身につけたいたのだ。 「こうやって両耳を合わせると一つの球体になるんだね」と両耳のピアスを重ね合わせる。 「ピアスの中にはそれぞれ一本ずつのバラが刻まれているの」  二本のバラの花言葉、それはーー 「この世界はあなたと私だけ」と二人の言葉が重なり合い、キスをする。  12:00p.m.  正午を告げるチャペルのベルの音が鳴り響く。
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