毒林檎もどきオオトカゲ

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「名前を奪われた」  これでは言葉が足りない、と気づいた柴原。  だが携帯電話の向こうにいる鶴巻は柴原が説明を始める前に問いかけてきた。 「急にどうしたんだ。名前って」 「今、説明しようとしたんだって。ほら、僕って趣味で小説書いてるじゃん?」  段階を踏んで説明しようと柴原はそう切り出す。  すると鶴巻は少し気だるそうに相槌を打った。 「あー、うん。なんか言ってたな」 「そう、それでさ小説投稿サイトに載せてるんだけど、同じ名前のやつが現れたんだよ」 「それってこの時間にしなきゃならない話? 今もう深夜二時なんだけど」  鶴巻の気だるさは徐々に高まっているようだ。  彼の言う通り、現在は深夜二時。それも水曜日から木曜日に変わったばかりの二時だ。柴原も鶴巻も休みは週末だという事実を考えれば、起きていることすら辛い時間帯である。  そんなことは柴原も理解しており、自分のベッドの上で電話をしていた。 「いや、本当にどうしても聞いてもらいたいんだって」 「わかったわかった。えっと何だっけ。小説投稿サイトで同じ名前の人が現れたんだっけ?」 「そうそう! 丸々同じなんだよ。おかしいと思わないか?」  柴原が問いかけると鶴巻は少し考えてからこう答える。 「うーん、いやたまたま名前が被ることだってあるだろ。お前が書いてる小説投稿サイトは日本語が主だろ? 同じ言語で考えるんだから、偶然被ることもあるんじゃないのか?」 「いや、絶対ないね」 「なんで言い切れるんだよ。この世界に同じ名前の人間が何人いると思ってるんだ」  頑として偶然かもしれないという可能性を受け入れない柴原に少し呆れながら鶴巻が吐き捨てた。  しかし、柴原には絶対に偶然ではないという自信がある。 「だってさ、僕が小説投稿サイトで使ってるペンネームは『毒林檎もどきオオトカゲ〜シェフの気まぐれ風鈴〜』だよ? 被ることなんてあるわけない?」 「なんて? 毒林檎もぐらラッパパンツ?」 「なんでしりとりしてるんだよ。『毒林檎もどきオオトカゲ〜シェフの気まぐれ風鈴〜』だってば」  やけに長くて全くメッセージ性のない名前を自信満々に語る柴原。  鶴巻は少し面倒になりながら会話を続ける。 「で、そのオオトカゲがもう一匹現れたってこと?」 「だーから『毒林檎もどきオオトカゲ〜シェフの気まぐれ風鈴〜』だって言ってるだろ」 「覚えられるわけない。どれがメインなんだよ、略したらオオトカゲになるだろう」 「メインはシェフな」 「どこメインにしてんだよ。その文脈でシェフがメインになることあんのかよ。いや、もう名前の議論はどうでもいい。そのシェフが現れて怒ってるってことか?」  そう鶴巻は生産性のないやりとりを断ち切り、話を本題に戻した。  すると柴原は電話越しに音が伝わるほど熱烈に頷き、会話を続ける。 「そうそう! あ、『毒林檎もどきオオトカゲ〜シェフの気まぐれ風鈴〜』な」 「さっきシェフがメインって言っただろ。めんどくさいな! 電話切るぞ」 「わかった、シェフでいいって。でも、名前を聞けば被るわけないってわかるだろ?」 「うーん、確かに被りようがない名前かもしれないな。でも名前が同じでも実害はなくないか?」  確かに鶴巻の言う通りだ。例え同じ名前の偽物が現れようと大した実害はない。あるのは少しの気持ち悪さくらいだ。  けれど柴原にとってその少しの気持ち悪さが無性に胸をざわつかせる。 「そうなんだけどさ。ほら、自分で言うのも悲しいんだけど、僕が書いてる小説は有名でも人気でもない。ペンネームだって知ってる人は作品を読んでくれている数人くらいなもんさ。名前を丸パクリするメリットなんてあるわけない・・・・・・なんていうかさ、キモくね?」 「完全に感情の言語化を諦めたな。まぁ、確かに気持ち悪いかもな。偽物のシェフの方は小説投稿してんの?」  柴原の感情に少しだけ寄り添った鶴巻はそう問いかけた。  すると柴原はベッドから立ち上がり、ガサゴソと音を立ててから言葉を返す。 「今、パソコンから投稿してるサイトのページを送ったからちょっと見てくれ。最初に送ったのが僕のページで二つ目が偽物のページな」  柴原がそう言うと鶴巻は明らかに面倒そうにため息をついた。 「はぁ・・・・・・もう寝ようと思ってたんだけどな。ちょっと待って、パソコン開くから」  次は鶴巻がガサゴソと音を立てて、準備をしてから口を開く。 「あー、えっと『気丈な空論』って作品が載ってるのはお前のやつ?」 「そうそう。あとは『タイトパンツにパンダ』とか『新宿に咲くラフレシア』とか『血液キュウリ』とか載ってるのは僕のページ」 「すげぇタイトルだな。小説読まないけどちょっと興味湧いたわ」 「やっぱりタイトルは小説の顔だからな。他にはない引きというかタイトルだけで読者の心を」 「柴原の創作論はいいって。それで、何を見せたかったんだよ」  鶴巻は逸れていく話の軌道を無理やり元に戻す。  意気揚々と語ろうとしていた柴原は軽い肩透かしを食いつつも本題を続けた。 「見て欲しかったのは偽物の方なんだ」 「なんでお前のページまで送ってきたんだよ」 「一応、比較にね。偽物の方は見れる?」 「ちょっと待って。偽物の方な。『二の五』って作品が載っている方は偽物ってこと?」  鶴巻がページを確認しながら問いかけると柴原は食い気味に頷く。 「そうそう! あとは『三の四』とか『一の七』とか載ってるやつが偽物。意味のわからないタイトルばっかり」 「お前も十分わからないけどな」 「読めばわかる」 「いや、読まないけど。でも確かに数字の組み合わせばっかりで意味はわからないな。全部でえっと、六作品か」  偽物『毒林檎もどきオオトカゲ〜シェフの気まぐれ風鈴〜』の投稿作品を数えた鶴巻。  そのどれもが二つの数字を組み合わせたもので、全てが別作品だとは思えない。  しかも上から『二の五』『三の四』『一の七』『一の八』『六の五』『九の一』と規則的に不規則だ。  鶴巻は少し考えてから再び口を開く。 「うーん、とりあえず数字の組み合わせってことはわかるけど・・・・・・柴原は内容も読んだ?」 「ああ、一応全部読んだよ。けど、中身は小説じゃなかったんだ」 「どういうこと?」  柴原はそう聞き返しながら小説の内容を確認する。  書かれていたのは何事もない日常を切り取った一ページの日記だった。  一番上にあった『二の五』は『今日も日記を書こう。春が過ぎ、夏の訪れを感じる今日。私は夜の街を歩いた』から始まっている。  特に面白い内容でもない。知らぬ誰かが夜の新宿を歩いたという内容である。 「何これ、日記?」  内容を確認した鶴巻が問いかけると柴原は少し困った声色で答えた。 「うーん、多分。でも大した内容は書かれてないんだよなぁ。面白くもないし、何かが起きてるわけでもない。どうでもいいような日記なんだよ」 「じゃあ、ただ名前を使っただけなんじゃない? 変なこと書かれてないなら放っておけばいいさ」 「いや、そうだけど・・・・・・妙な胸騒ぎがするんだよ」 「なんだよそれ。また言語化できてないぞ。気になる内容でもあるのか?」  柴原の言う胸騒ぎに共感できず鶴巻が問いかける。  しかし、妙な胸騒ぎは妙な胸騒ぎでしかなく柴原は首を傾げた。 「うーん、何かあると思うんだけどなぁ。考えてもわからないから鶴巻に聞いてるんだよ」 「なんで俺に?」 「ほら、鶴巻ってミステリー好きだろ? 何かわからないかなって」 「そりゃあミステリーは好きだけどさ。事件ってわけでもないし・・・・・・」  柴原の無理難題に困る鶴巻。  大して有名でもないペンネームが奪われた。ペンネーム泥棒。本人にとっては大事かもしれないが、事件と呼ぶには少し弱い。  それでも頼ってきた友人を見捨てるわけにはいかず、鶴巻は渋々聞き取り調査を始める。 「あー、じゃあさ、偽物が書いている数字に覚えはない?」 「タイトルの数字? うーん、特にないなぁ」 「ペンネームをパクるような人間に心当たりは?」 「ない」  せっかく鶴巻が調査をしようとしているのに「ない」と即答する柴原。  鶴巻の中で再び面倒だと思う気持ちが顔を出し、半ば諦めるような気持ちで次の質問をぶつけた。 「じゃあ、『二の五』って作品の内容に心当たりはないの? 夜の新宿を歩いた、とか」 「そりゃあ、歩いたことはあるけど・・・・・・あ、そういえば偽物が書いてる日記は全部新宿が舞台になってるんだよ」  ここで新たな情報を口にする柴原。  最初から言えよ、と思いながらも鶴巻は会話を続ける。 「じゃあ、新宿関係で思い当たることとかない?」 「新宿・・・・・・そうだな・・・・・・あ、そういえば」 「何かある?」 「僕の作品にさ『新宿に咲くラフレシア』ってあったじゃん。あれを書く前に新宿へ取材に行ったんだ。夜の街をリアルに書きたくてさ」  新宿というワードで思い当たったことを話す柴原。  すると鶴巻は不思議そうに聞き返した。 「それのどこに思い当たることがあるんだよ。夜の新宿に行っただけだろ?」 「いや、それがさ。ちょっとした事件に遭遇したんだよ」 「事件?」 「事件っていうか事件後なんだけどね。女性が襲われそうだったところに通りかかって」  柴原がそう説明すると鶴巻は首を傾げる。 「それは事件後? 襲われそうだったところを助けた、とかじゃないの?」 「違う違う。女性の叫び声が聞こえて、路地裏に向かったら既に勇気ある青年が助けていた後だったんだよ。犯人も逃げたらしいし」  そう答える柴原。  それってつまり、と鶴巻は言葉を続けた。 「めちゃめちゃ部外者じゃん」 「しかもその青年はイケメンだった」 「めちゃくちゃ部外者じゃん。絶対に柴原は脇役じゃん」 「助けられた女性は青年に連絡先聞いてた」 「通行人Aじゃん」 「僕よりも先に何人か来てた。多分三人くらい」 「通行人Dじゃん」  とどのつまり柴原は事件に直接関係ない。  これ以上聞いても仕方がないか、と鶴巻がこのエピソードを終わらせようと考えていると柴原は新事実を口にする。 「でもさ、その時取材だったからカメラを持ってたんだよ。多分その場にいた人の中で僕だけ」  事件現場で一人だけカメラを持っていたと言う柴原。  その発言でこのエピソードに一つの可能性が生まれた。 「なぁ、もしかしてカメラに犯人が写ってたんじゃないか?」  ミステリーでありがちな展開ではないのか、と思いつき鶴巻は問いかける。  しかし柴原は電話越しに首を振った。 「いや、それはないよ。確かに録画もできるカメラだったけど、写真を撮るために持ってたからな。事件現場では一枚も撮ってない」 「でも犯人からすると撮ってるか撮ってないかは関係ないはずだ。その場でカメラを持ってたやつがいるだけで危険視するだろ」 「うーん、確かに鶴巻が言ってることもわかるんだけど、それが小説投稿サイトに繋がることはないだろ。ペンネームを叫びながら歩いてたわけでもないし」  確かに柴原の言う通りである。事件後に遭遇したことと小説投稿サイトは関係ない。  だが、『風が吹けば桶屋が儲かる』なんて言葉もある。  心当たりがそこにしかない以上、もう少し深掘りするべきかもしれない。  そう考えた鶴巻は少し考えてから質問を続ける。 「ペンネーム・・・・・・小説投稿サイト・・・・・・なぁ、柴原。事件後に遭遇したあとは真っ直ぐ家に帰ったのか?」 「いや? 新宿にある行きつけの居酒屋で一杯飲んでから帰ったよ。そこの店主が同じサイトで小説を書いててさ」 「もしかして、その居酒屋で自分のペンネームを話してないか?」 「そりゃ、店主と話すときはお互いペンネームで呼んでるよ。むしろ本名は知らない」  柴原の答えを聞いた鶴巻は一気に背中が寒くなった。  つまり、他人が柴原のペンネームを知る機会は存在したということになる。  少しずつピースが埋まっていく気持ち悪さを感じていた。 「待て待て待て、じゃあ、取材で新宿を歩いてたって話もしたのか?」 「ああ、したよ。新宿を舞台に小説を書こうと思ってるってな」 「・・・・・・お前がシェフだと知る機会はあったってわけだ」 「いや『毒林檎もどきオオトカゲ〜シェフの気まぐれ風鈴〜』な」 「しつこいな。そんなことより、もしも新宿で遭遇した事件の犯人がお前のペンネームを知り、偽物になったとしたら・・・・・・もしかすると投稿している日記にも意味があるかもしれないぞ」  多少無理のある推理だが、可能性がゼロなわけではない。  むしろ他に心当たりがないのならこの方向で考えていくしかなかった。  鶴巻の推理を聞いた柴原は少し考えてから聞き返す。 「日記に意味? 読んだ限りだとただの日記だったけど」 「・・・・・・暗号とか」  半ば真剣に鶴巻はそう言い放った。  確かに数字の組み合わせは暗号にしやすいかもしれない。『二の五』『三の四』『一の七』『一の八』『六の五』『九の一』が暗号だとしたら。  鶴巻と柴原は偽物の投稿作品が暗号だと仮定して考え始める。  しかし、六つの作品全てが大した内容ではない日記で、何かが隠されているとは思えなかった。  話し合いながら二人は推理を続けるがそれらしい答えに辿り着けず、同時にため息をつく。  少し休憩でもするか、という流れになり鶴巻はその間に柴原が遭遇したという事件についてインターネットで検索した。 「えっと、日付と場所を打ち込んで・・・・・・おっ、結構大きなニュースになってるぞ。連続通り魔だってさ。柴原が遭遇した事件よりも前に同じような手口で二人殺されてる」 「マジで? めちゃめちゃ怖いな。偽物と犯人が関係ないといいんだけど」 「そうだな。別人だって可能性の方が圧倒的に高いし、たまたま重なっている可能性が・・・・・・」  鶴巻はそこまで口にしたところで自分の言葉から断片的に発想を得る。 「別・・・・・・重なる・・・・・・」 「どうした鶴巻」 「いや、例えばタイトルの暗号と内容を重ねて考えるんじゃないのか。その上で暗号になっている・・・・・・とか」  鶴巻が説明すると柴原は余計にわからなくなったらしく、不思議そうな声で聞き返した。 「どういうこと? 暗号?」 「タイトルはタイトルで暗号になってて、内容と重ねることで答えが出てくる、みたいな」  自分の中でも纏まりきっていない推理を考えながらゆっくり話していく鶴巻。  そんな推理を聞いた柴原はそれをヒントにふと思いつく。 「タイトルが暗号で内容と重なる、ってなると文字の位置を指定しているとかは考えられないかな」 「文字の位置の指定か。例えば『二の五』だと二行目の五文字目とかってこと?」 「あー、かもしれない。で、現れた文字をつなげていけばメッセージになってるんじゃないか?」 「そんな売れないミステリーみたいな暗号あるか?」  少し馬鹿したように鶴巻はそう話した。  だが柴原は一度思いついたその推理を試さずにはいられず、内容を確認する。 「まぁまぁ、とりあえず試してみようよ。『二の五』だと一行目が『今日も日記を書こう』で二行目は『春が過ぎ、夏の訪れを』になってる。五文字目は『ぎ』か」 「それが六作品繋げてメッセージになってる・・・・・・か。じゃあ、二作目の『三の四』は三行目の四文字目で『お』だな」  柴原の試みを受け入れ鶴巻も暗号解読に参加した。  これまでの二つと同じように残りの作品も法則に従って、解読していく。  三作品目は『一の七』の一行目の七文字目で『ま』同じように四作品目は『は』五作品目は『つ』六作品目は『だ』と読み取ることができた。  全ての文字を解読し終え、鶴巻が口に出して読んでみる。 「出てきた文字全部をつなげると・・・・・・ぎおまはつだ。まぁ間違いなく日本語にはなってないな」  ようやく近づいたと思っていた真相から再び離れていく二人。  既に夜よりも朝の方が近い時間になり、疲労は限界だった。   「うーん、これ以上何も思い浮かばなそうだな。少しでも寝たいしそろそろ終わりにするか」  そう鶴巻が切り出す。  妙な胸騒ぎは消えていないものの、自身も疲れ始めていた柴原は仕方がないと頷いた。 「そうだな。こんな時間までありがとう。また何か思い出したら相談するよ」 「おう。じゃあ、電話切るぞ」 「うん。じゃあな」  こうして柴原との通話を終えた鶴巻。  深夜二時からずっと話していため、喉が渇いて仕方なかった。  部屋の冷蔵庫から水出しの麦茶を取り出し、飲むと再びベッドへと向かう。 「まだ三時間は寝れるな」  鶴巻は自分に言い聞かせるように呟き、布団に潜ったもののどうしても偽物のページが気になった。  もう一度だけ見て寝よう。  それくらいの気持ちでページを開くと、そこには七作品目が投稿されていた。 「え? 新しい日記だ。『一の一』か・・・・・・」  急いで内容を確認する鶴巻。  新たに投稿された『一の一』の内容は探し物をするという内容の日記である。  無くしたものを探すには一つ一つ情報を確認していけばいい、という面白みのかけらもない内容。  しかし、その日記を読み終わる頃、鶴巻は全身の震えが止められなくなっていた。   「・・・・・・『一の一』の書き出しは『えらく悲しい夜である』だから法則に従うなら『え』だ・・・・・・」  これまでの文字を全て繋げると『ぎおまはつだえ』である。もちろん日本語にはなっていない。  問題なのは最後の一文。それが鶴巻を震えさせていた。  書かれていたのは、日記の内容と全く関係ない『ようやく見つけた。これから盗みに行く』という謎の文章である。 「なんだよこれ・・・・・・見つけた? 何を・・・・・・柴原を? でも何で・・・・・・暗号を解読しても意味のない文字だったし・・・・・・ぎおまはつだえ・・・・・・おま・・・・・・え。そうか! 入れ替えればメッセージになるのかもしれない。『おまえ』が合ってるなら残りは『ぎはつだ』・・・・・・『つぎ』か? 『つぎ』『おまえ』『は』『だ』・・・・・・」  答えに近づくたび強くなる鼓動。  言葉にできない緊張感を感じながら鶴巻はついに一つの答えに辿り着いた。辿り着いてしまった。 「嘘だろ・・・・・・マジで・・・・・・くそっ!」  鶴巻は慌てて柴原に電話をかける。  しかし、呼び出し音が鳴るだけで中々柴原は出ない。 「くそ、早く出ろ柴原!」  届くはずもないと分かりながら叫び、鶴巻は電話をかけ続けた。  しばらく待っていると、呼び出し音が鳴り止み画面には『通話中』が表示される。  ようやく電話が通じたことに安心した鶴巻は慌てて話しかけた。 「よかった、柴原聞いてくれ。暗号の意味がわかったかもしれないんだ」 「・・・・・・」  鶴巻が話しかけているというのに向こう側からは何も聞こえない。  不自然に思った鶴巻は話をやめて、名前を呼んでみる。 「柴原? 聞こえてるのか、柴原。なぁ、おい」 「・・・・・・」 「聞いてくれ、さっき確認したら新しい日記が投稿されてたんだよ。それでな、新しい日記も含めてタイトルの通りに文字を出してから並び替えると言葉になるんだ。それは」 「次はお前だ」  鶴巻の言葉を遮り聞こえてきた声は明らかに柴原のものではなかった。低い、おどろおどろしい声。  その言葉を聞いた鶴巻は頭の中で全てがつながり、言葉を失う。  柴原のペンネームを奪った名前泥棒は柴原の命を盗んでいったのだ。そして泥棒は次の獲物を鶴巻に見定めたらしい。
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