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絞首台の朝
絞首台から見えるのは、見渡す限りの戦場だ。
元々は野山と村落が接する境界だったのと思われた。だが戦争の前線となった二ヶ月は、この地を根こそぎの焼け跡と、塹壕と、有刺鉄線しかない大地に変貌させてしまった。ほんの数キロ先では、敵軍が同じように、夢のない眠りの中朝を待っているはずだ。
絞首台は木製で、周囲に見えるものの中では一番新しく、確固とした形を保っている。大人の身長ほどの高さがあり、居並ぶ連隊が処刑の様子をよく観察できるよう設えられている。吊るされる受刑者の体重に耐えられるよう、絞首台の柱は太い。本日処刑が予定されているのは一人だけで、設置されている縄も一本だけだった。
絞首台の上にいるのは三人の人間だ。
一人は死刑囚で、椅子に座らされ、腕を後ろ手に縛られて、麻袋を被せられている。その罪状は、戦場での窃盗行為だ。友軍戦死者の死体から腕時計を取り外していた現場を取り押さえられたのだ。戦死者の形見を遺族に届けるために回収していたのだという訴えは、十数個の所有者不明の腕時計を所持していたことで退けられた。彼の供述では、それらの時計は敵軍の死体から回収したものであって、神と国家に恥じるところは何一つないという。だが敵軍であろうと戦死者への窃盗は明らかな軍紀違反であり、また軍法会議で彼の言葉を信じたものはいなかった。
側に立つのは二人の歩哨だ。二人とも紺色の軍服を身に纏い、ライフル銃を肩から提げている。朝礼の場でこの死刑囚は絞首刑に処せられ、連隊に対して綱紀粛正が厳命される予定だった。あと数時間で絞首刑が実行されるはずだ。それまで二人は死刑囚を監視する役目だった。一人は色黒で、栗鼠のような黒い目を油断なく、死刑囚と、それから辺りに巡らせていた。もう一人は赤ら顔で鼻の大きな男で、いかにも眠そうな様子で目をしばたたかせている。
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