そして貝は閉じられた

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そして貝は閉じられた

1年生の2学期の終わり。 算数の時間に配られたプリントが涼の前で足らなくなった。 涼は、担任の元に行き 「りょうちゃんのプリントが足りなくなったのでください」 すると担任は 「涼ちゃんを呼んで来なさい」 涼は、もじもじしながら 「わたしです」 「涼ちゃんって、貴方? 自分のこと、ちゃん付けしているの? おかしいでしょ? もう、やめなさいね。はい! プリント」 涼は、初めて知った。・・・ 母さんも父さんも、ボクチンも文クンもご近所さんも皆から、『りょうちゃん』って、物心ついたときからいつも呼ばれていた。 それが自然だった。いけないことだったのかな? おかしいことなんだぁ?  黙って席についた。 お昼の給食の時間。 担任が思いがけないことを全員の前で言った。 「今日、松井さんが、自分のことを、涼ちゃん! ってちゃん付けして呼んでましたが、正しいでしょうか?」 すると数人から 「おかしいです! 自分には、ちゃん付けしてはいけません」 「そうですね。自分のことをちゃん付けで呼ぶのはおかしいですね。松井さんは、直しましょうね。皆さんもしてはいけませんよ」 そこかしこから、笑い声が上がった。 涼は、恥ずかしくて顔が真っ赤になり、給食が喉を通らなくなった。 そして、その日から涼は、学校では必要な言葉以外発しなくなった。
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