奇妙な患者‥サトウ

2/10
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 僕が病院に担ぎ込まれ、この大部屋に来てから五日経つが、一度も顔を見たこともなければ、声を聞いたことすらないのだ。  隣の患者って、どんな人だろう‥‥?、  ベッドの周りをぐるっと囲えるよう、吊るされたクリーム色のカーテンを、四六時中ずっと閉めている。  少なくとも僕が入院してからは一度も開けたことがないのだ。  このカーテンの中にいるのが、どんな人なのか? 何歳なのか? そもそも    何で入院しているのか?  全くもって分からないのだった。 トイレに行く姿も見たことがないのだ。 「ひょっとしたら、そうとう重篤で、排泄行為も寝たままかも‥‥」  それも考えられるが、私には触れるな!――と言わんばかりの鉄壁感が、そこにあるように思えた。  それが意図してか、どうかは分からないが‥‥。  ただ、一つだけ分かっていることがある。  病室の入り口のネームプレートに『サトウ ミノル』と明記してあることだ。  しかし、分かったことはそれだけで、結局、いまだ正体不明だ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!