『時代はまわる』

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『時代はまわる』

 書店で目にとまった本の帯が気になった。著者の顔写真が姉だった。  すぐに分かったのは、姉はいつも同じポーズで写るから。話題の啓蒙書のその写真も、顔の横でピースをして舌を出している。ガングロの白い唇で。  きっと気のせいだと書店を出た真正面の壁に、参議院選の選挙ポスターが並んでいてそれが全部姉だった。みんな同じ顔だ。政党も名前も違うのに。  いかん、今日はもう帰ろう。駅に向かって歩く正面で、ビルの巨大な看板群が全部姉になっている。バスの側面の和菓子屋の広告も姉だった。  なにしてんだと、姉に電話しようとしてスマホを出したら待ち受けも姉だ。 「おい、世の中の写真が全部姉ちゃんだぞ」  と僕はビデオ電話のカメラをビルの上の看板に向ける。 「うん。時代は回るということを証明しようと思って」  画面の姉はピースをしながらそう言って舌を出す。  えへ、じゃないって。  姉は生まれ持った超能力をそんなことにしか使わない。
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