『バスジャックに遭ったら』

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『バスジャックに遭ったら』

 高速バスがバスジャックに遭った。  黒ずくめの男が二人ライフルを抱えて乗り込み、車内が騒然とした。 「先輩、大丈夫ですよ」  隣の席の後輩が俺にそっと耳打ちした。 「ちょうど昨日のヤフーニュースで、警視庁が発表していたのを見ましたんで」 「何をだよ」と俺は声を潜める。 「もしバスジャックに遭ってしまった時の心得『てそうをみる』です」 「てそうをみる?」 「はい、これさえあれば大丈夫です」  後輩は安心してくださいと言うようにウインクした。 「『て』は抵抗しない。『そ』は率先して女性と子供を守る」 「ちょっと強引だな」 「いいんです。で『う』は運転手に話しかけない。『を』は落ち着く」  フム、まあ分からなくもないが。 「『み』は見ないジロジロと」 「倒置法が苦しいな」  そこで急に後輩は「しまった。やばいです」と頭を抱えた。 「どうしたんだよ」 「『る』が思い出せません! ああ、これではどうしようもない!」  結局俺たちはバスジャックになすすべが無かった。
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