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車内にアタシが先に乗り込んで、黒木は煙草を吸いに喫煙場所に行く。
ブ、ブブブ・・・
中古のスマホのライン通知のバイブ音が鳴る。れんさんのことを知るには、彼女の心の奥深くまで寄り添いあうことが必要。
【できてんの?】
ストレートな物言いができるのに、別れたい人には素直に言えなくなる。素直に言えなくなるほど、大切な相手だから。
【質問に答える必要ある?】
上から目線な物言いの相手に丁寧に接するより、最初から砕けたほうが友達らしい。黒木の姿が見えてきて、運転席に乗り込む。
「黒木の知っていること共有して」
「いいけど、知ったところで上手くできるのか?別れさせられなかったら調査費と衣装代だけになる」
別れが失敗したときは、調査費と衣装代だけで満額が貰えない。依頼人が土壇場で心変わりしたときも同じ。
「わかってる」
仕事用のスマホのラインにスクリーンショットが送られる。ガールズバンドのバンドであるれんさん。別れさせたい人は。
「ボーカリストの紅」
派手なメイクをしているけれど、幼さが残る大きな瞳はたれ目で、笑うとえくぼと八重歯が見えている写真。
「それで?」
ゆっくり車が発進する。冷房の温度を微調整する黒木に、後部座席のヘッドレストにかけてあるブランケットを羽織るアタシ。
「好きなんだと」
れんさんと会ったとき、舌打ちしてたし、奥歯を噛み締めて睨んでいる様子が、見られたのはそういうことなのね。
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