第13章 リハビリテーションな日常

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いろいろ考えたけど、思うにだりあみたいな子にとっては。終始一人でこの世界を生き抜くのはハードモード過ぎる。 もちろん、本人がしっかり自立できるだけの技能や矜持を持って、いざというときは誰にも頼らずに生き抜けるだけの備えをしておくのは大切なことだ。だけどそれはそれとして、一番いいのは信頼できるまともな男と恋に落ちて添い遂げる、それが何より現実的な解決法だと思う。 この容姿と性格で、次から次へとたかってくる男を振り切って一生無事に切り抜けるのは誰だって無理だよ。としか。 多分中身がわたしでもきつい。だからといって、子どもを守るみたいにこの先もずっとそばにいてあらゆるものからガードし続けるわけにもいかないし。てか、いつかは子どもだって独り立ちする。だけどわたしが何もかも全てのものからびったり先回りしてこの子を守り続けたら、手を離すタイミングを逸して生涯の終わりまでそのままになりそうだ。 それでもいい、と考えるほど自分がこの子にかける思いは激重でもない。それよりはやっぱりだりあのことを本気で好きな誠実な男と相思相愛になって、ずっと一緒に生きていくのがまともで健全な結末なんじゃなかろうか。 男に依存して生きていくのか、なんて面倒くさい難癖付けてる場合じゃない。越智(とは限らないけど。そのレベルのまともさを持った男)だって不死身じゃないから、何かあったときのセーフティネットとして手に職とかは持つべきだと思うけど。 この子にとっての日常の脅威はなんと言ってもまず、不特定多数の男たちだから。そこからガードするために特定の男性の存在を傘にするってのは割と合理的な発想じゃないかな。毒を以て毒を制すというか。 言わば窓から見えるように干した男物のパンツみたいなものだ。そのパンツがだりあの心と身体を満たして、生涯睦まじくそばにいてくれるなら尚いい。 今のところ暫定的に、越智よりもその条件にぴったりな男がわたしの周りにはいない。だからこのまま密かに二人の仲を後押しして、その結果だりあが越智の良さに気がついていつか思いに応えてあげてくれたら。…とただ願うくらいしか、今のわたしにできることはないかも。 とりあえず、さっきの鶏胸肉をメインに使って今夜は何のメニューを作るかだな。と頭をそこで切り替え、わたしはぱたんと少々小さ過ぎる冷蔵庫のドアを閉めた。 パソコンスクールでの授業を順調に消化して、あともう少しでだりあは資格試験を受けられそうだ。って目処がついてきた、夏休みも近いある日のこと。 その日は訪問の予定がなかった越智から急遽LINEで、どうやら地元での状況に動きがあったらしい。って報告が送られてきた。 『木村が働いてた会社に代わりの人員が採用されたらしいんだけど。噂によるとどうやらそれが、阪口が二股かけてた例の新しい彼女らしい。ずっと隠してたけど、これで正式に木村の後釜として表向き認知されることになりそうだ』 ある意味木村からもう関心を失ってるいい兆候と言えなくもないけど。あの子はおそらく当時から二股かけられてることは知らなかっただろうと思うから、伝え方に気をつけろよ。と細かい気遣いの入った注釈が添えられていた。さすが、べた惚れの民。 「木村のときと同じで阪口建設の社長経由のコネ採用らしい。って噂はあったんだけど、最近になってその子が木村が住んでた部屋にそのまま後に入居したらしいって判明して。契約の名義は阪口の息子のままだから多分、間違いないだろうって。新しい彼女ができて、しかもそうやって表に出してきたってことはおそらくその子の手前もあるし。もう前の彼女にかまける気はほぼ失くしてる、って考えてもいいんじゃないかな。もちろん油断は禁物だけど」 翌日部屋を訪ねてきた越智は、改めてわたしたちを前にして詳しい状況を説明してくれた。 どうやら以前にだりあのことを教えてくれた玉川という友達だけじゃなく、地元の知り合い何人かに阪口の周りで何か変化があったら教えてくれと頼んでおいたようだ。そういう点ではわたしには地元に同年代の伝手がないから、つくづくこういう面ではコミュ強者の越智みたいな奴が仲間にいてよかったと思う。 「その子が阪口家の親戚とか身内って可能性はないの?息子の方の新しい彼女ってのは何となくの推定?それとも、何か根拠あるとか」 ぬか喜びしたくないのでつい慎重になる。黙り込んで考えているだりあの方はもしかしたらさっさと後釜を作られてやっぱり多少ショックなのかもしれないけど。こっちはそういう感情的な拘りとかないから、単純に阪口の関心がだりあからそっちに移ってるのが確実なのかどうかが気になる。 「俺もそう思って、念のため阪口の取り巻き連中の内部に近いやつまでぎりぎり伝手辿って訊いてもらった。俺が裏にいるってばれるとやばいかなと思ってちょっとひやひやもんだったけどね。その女の子、阪口建設の息のかかったキャバクラで働いてた子らしいんだ。木村のあとに彼女が入居したその部屋に阪口の息子が頻繁に通ったり、会社に迎えに来たりしてるらしいからまあ確定だろうな。前職考えても、かなり無理にごり押しで会社に採用させたのは間違いなさそうだし」
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