第13章 リハビリテーションな日常

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まあ。接客業からいきなりリノベ会社の内勤事務は、よほど難関の資格でもばりばり取って積極的に応募してきたんじゃない限り。職歴としては普通に飛躍してるよね…。 そこでずっと黙り込んでただりあがおもむろに口を開いた。 「…その子は。大丈夫なの?わたしと同じ目には。遭ってない、のかな…」 なるほど。なんか重々しい顔してると思ったら、それを心配してたのか。 確かに、だりあの後釜と言われたら。今はその子が代わりに同じ役割を押しつけられてる可能性はないとはいえない。…かも。 だけど越智は顔色を変えず落ち着いた表情で頭を横に振った。 「それは多分ないと思う。堂島と親しいやつが、阪口の今度の新しい彼女に全然会わせてもらえないんだよって愚痴ってたのを聞いてるらしいから。何でも一応飲み会か何かのときにちらっとみんなの前で紹介はしたってことなんだけど。あっという間に阪口のやつ、彼女連れてさっさと帰っちゃったんだってさ。だからまだどんな子かよくわかんないんだよなぁ、顔は綺麗だったけど。って言ってたらしい」 「…そっか」 何とも言えない複雑そうな表情で呟くように相槌を打った。 やっぱりあんな男でも、別れたあとに新しい彼女ができたと聞けば寂しい気持ちになるもんなのか。これで完全に切れた、よっしゃさっぱりした!ってわたしなら全面的に解放感でさばさばした気分になるけど。てか、わたしならまずあの手の男とはそもそも付き合わないから…。他人の考えることはよくわからない。 「…その子は。すごく大切にされてるみたいだね。彼から」 俯いてぽつりと寂しそうにそう独りごちた。やっぱり、そこか。 わたしは肩をすぼめてフォローするでもなく思ったことをそのまま口にする。 「単に付き合い始めだからってのもあるでしょ。あんただって、高校の頃は下にも置かない扱いだったんじゃないの。その子が特別かどうかはわかんないよ。何年も先になってみないと…。でも、そこまで見届ける必要もないんじゃない?」 下を向いたままじっと固まってるだりあに届くかどうかはわからないが。とにかく説くだけは説いてみようと先を続けた。 「数年経ったらあんたと同じように飽きられて別の子にまたすげ替えられるかもしれないし、もしかしたら今回のことを反省材料に学習したからもう少しまともに相手と向き合おう、と対応を変えてくるかもしれない。何年かしたらあんな男だって少しは大人になって、新しい彼女の方があんたより好きだからとかいう理由じゃなく、普通の人と同じように女の子ともっとまともな付き合い方ができるように成長していく可能性もあるかもね。でも、そんなのもうどうでもいいでしょ。だりあにとっては全部終わったことだよ」 「そう、もう考える必要ない。阪口とその彼女がもし仲良くてべったりならそれだけこっちもありがたいことだ、って前向きに捉えないと。木村の行方を探し出して地元に連れ帰ろうって執着がその分薄れるだろうって考えたら。もっとその女の子に惚れ込んでくれた方がよりこっちは助かるってもんだよ。何でも前向きに考えないとね」 越智も横から熱心に口を挟んできた。 「…まあ。今となっては彼のところに戻りたいとか。時間を巻き戻して最初から全部やり直したいって気持ちはさすがに、もうきれいさっぱりなくなっちゃったけど」 何か言わないとと感じたのか、項垂れてただりあがようやく重い口を開いて言葉を探しつつゆっくりと話し始めた。 「それでも。やっぱり次の子がちゃんと大事にされてるとわかると、わたしは何が駄目だったのかな。あんな風に扱われたのはこっちに原因があったんじゃないかって考えが消えないかな…。あ、でも。同じ目に遭ってないならそれはもちろん、よかったと思うよ?」 慌てて表情を繕って笑顔を作る。越智はそんなだりあに生真面目な顔を向けて、静かな声で諭すように応えた。 「それはわかってるよ。木村が自分が遭った酷い目に、今度は別の人が代わりになってるって知ったら絶対に喜んだりしない。自分のことみたいに胸を痛める子だっていうのは…。ちゃんと俺らにはわかるから。それはそれとして複雑な気持ちになるのだって。無理ない、当たり前のことだと思うよ」 「…うん」 だりあは何か込み上げてきたものを堪えるようにしばし黙って下を向いた。 「…ありがと。そう言ってもらえると」 「あんたとその子の待遇が違うのはほんとに付き合ったタイミングの差でしょ。少なくともだりあに非はない。考えるだけ無駄だよ」 わたしもだりあを励ましたくて重ねて言葉を継いだ。 「それより、物事のいい面に目を向けた方がいい。これで奴があんたを連れ戻しに来る可能性はかなり減った。わざわざ東京からだりあを引きずっていってももう置いとくポジションがない。そこまでしてあんたを罰しようと考えるより、視界に入らないでいるならもう構わないって決めたんじゃないかな。わたしがバックにいるのは既に察してるだろうし」 「まあ。喧嘩するには厄介な相手だよな、確かに」 越智が明るい声で傍から混ぜっ返した。
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