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考えてみたらこの子はわたしの子どもでもないし。全面的に保護下に置いて身の安全に責任を持たなきゃいけないような間柄でもないのに。
何となく、自己決定権もない存在みたいに扱ってこっちの都合で封じ込めてるみたいな感じになるのはよくないよな。と考えて一応水を向けてみる。だけど何となく漠然と予想してた通り、だりあは頑なな顔つきできっぱりと首を横に振った。
「ううん。平気、別にそこまで暇を持て余してもないよ。資格の勉強もあるし読む本もまだいっぱいあるし、もしどうしても時間余るならこのお部屋を隅から隅まで磨き上げてぴかぴかにしたっていいんだもん」
まあ。…だけどわたしもあんまり部屋を散らかしたり汚したりする方じゃないし。だりあも全然だらしなくないから、掃除もそこまでやり甲斐なさそうなんだよな。
疑り深そうなわたしの反応を無視して熱心に自分の言い分を力説する。
「それに、わたし一人で行っても楽しめそうなとこなんて全然いっこも思いつかない。普通にこの近所をのんびりお散歩するだけでも充分楽しいよ?住宅街でも地元と東京って全然違ってて、新しい発見もあるから結構いろいろと新鮮だしね」
「…うーん」
そう言われればまあ。無理にでも外に遊びに行って暇を潰せ、と押しつけられるほどのことでもない。わたしは自分の提案を素直に後ろに引っ込めた。
だけど、その後も改めて考えるにだりあがいくらこれで満足してるからと言って。このまま狭い行動範囲にの中だけに押し込めておくだけでいいのかって疑念はやはり胸の内をよぎる。
この先もし順調に仕事が決まれば、有無を言わさず普通の一人前の大人として自分の足で動き回ることになるし。東京っていう慣れない土地でいきなり必要にかられても、独立したあとならいちいちわたしや越智に助けを求めるわけにいかない局面だってあるだろう。
隅から隅まで都内を見せて回ることまではさすがにできないが(ていうか、わたしも知らない場所や行ったことないエリアは普通にいっぱいある。そこまでめちゃくちゃにアクティブな学生生活をこっちで送ってるわけじゃないのだ、当然)。機会があれば多少の土地勘が得られる程度にはいろんなとこを見て回っておいた方がいいのかもしれないな。
そう思って、大学の夏休みもいよいよ間近になってきたある日。講義もバイトも何の予定も入ってない日程を確認したわたしは、試しにだりあに向かって切り出してみた。
「あのさ。…あんた、スクールがあるのって確か火・金だっけ。今度の水曜日、わたし講義もバイトもないんだよ。そんでさ、もしよかったら。…どっか出かける?たまには」
背後で人参の僅かな匂いの気配を感じた聡いうさぎみたいに、だりあはびん!と振り向いて大きな目をまっすぐわたしに向けた。
「え?…もしかして、それって。うゆちゃんと一緒に、ってこと?…わたしに言ってる?」
「当たり前でしょ。あんた以外に誰がいるよ?」
らんらんと目を輝かせる彼女に呆れつつ引きながら答えると、だりあはやったぁ!とぴょこんと跳ねるようにしてはしゃいだ。
「えーと、つまりはその日はわたしとうゆちゃんでデート。ってことだよね?わーい、やっためっちゃ嬉しい。ね、どこ連れてってくれるの?」
「別にどこでも…。あんたの行きたいとこでいいよ。見てみたい場所とかあるでしょ?せっかく上京してきたんだし」
そこまでか。とびょんぴょん子どもみたいに喜ぶだりあに閉口しつつ、どこも希望の行き先が思い当たらないって言われたらじゃあ何を提案するべきか。と内心で思いあぐねる。
もともとだりあは地元で暮らすことに不満もないタイプで、さほど都会への憧れとかは持ち合わせてなさそうだし。東京で行きたい場所っていきなり問われても何にも候補出して来なさそう。一般的に地方から来た人が大体みんな楽しめそうなところってどこだろ?東京ディズニーランド?
東京ってついててもありゃ千葉だし。って考えて却下しかけた。でも、別に都内に限定する意味ないのか。…うーん、だけど。結構半端なくチケット代かかるし、親がかりの一人暮らし学生には正直きつい。あと、自分のキャラ的にあの手の場所が合うかどうかっていうと、そっちの面でも割ときつい。
自分がかっこつけたすかした奴だとはそんなに思いたくないわたしであったが、黒いねずみの耳を頭の上に装着した姿を他人に見られるのはさすがに…。
いや、買わなきゃいいし着けなきゃいいんで。とは思うものの。案外楽しめちゃったらどんな反応になるんだ自分。我ながらちょっと想像し難い。
だけどわたしの内心の煩悶を知らないだりあは、その問いかけに素直にぱっと目を輝かせて即、身を乗り出してきた。
「え。…行きたいとこ自由に言ってみてもいいの?てか、希望言うだけなら。とりあえず大丈夫?」
何だ、本音ではちゃんと行きたい場所あったんじゃん。余計な気を回して損した。
上目遣いでこっちを見上げてくる顔つきがおねだりが通るかどうか、様子を伺ってる子どもみたいだ。と思いながらわたしは答えた。
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