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私は震える右手で、胸ポケットからレコーダーを取り出した。すると胸の奥から、莉子への感謝の気持ちと、別れの寂しさがこみ上げてきた。
鼻の奥がつんとなり、私の目から涙がこぼれた。私は、溢れる思いをすべて莉子に伝えた。
「私ね、これから頑張って、いつか莉子みたいな声優になりたい! 絶対、約束するから!」
私は伸ばした左手の小指を、莉子に向けた。目を赤くした莉子も小指を伸ばして、私の指と絡ませた。
「しほならきっと、私よりすごい声優になれるよ。天国から応援してるね。頑張れ、しほ」
莉子がそう言うと、突然スタジオ中にオレンジ色の煙が立ち込めた。煙がなくなると、もう莉子はいなくなっていた。
私は「ありがとう、莉子」と呟くと、頬を伝う涙を手で拭った。大丈夫、私ならやれると大きく頷く。だって臆病者の私は、もういないのだから。
私が正面に立つ秋也を見て笑うと、秋也も私に優しく微笑んだ。私は右手に持っていたレコーダーを、強く握りしめた。
莉子の温もりが、確かに残っていた。
(了)
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