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通路の床に落ちていたのは、オレンジ色のレコーダーだった。落し物だろうかと、私はそれを拾い上げた。
すると手に取ったレコーダーが、突然光った。私は驚きのあまり、しりもちをついてしまった。私が顔を上げると、目の前にオレンジ色の煙が広がっていた。煙の奥には、女性らしき人影が見えた。
「驚かせてごめんさない。大丈夫?」
煙から細い右手が伸びてきたので、私は反射的にその手を握って、床から立ち上がった。私はありがとうとお礼を言って、彼女の顔をじっくりと見つめた。彼女の正体に気がついた私は、思わず大声を上げた。
「あなた、まさか。志田莉子……さん?」
私があぜんとしていると、彼女は私を見てにこっと笑った。金髪のロングヘアに、白地に花柄のワンピース姿がよく似合っていた。彼女は太陽みたいに明るい笑顔で、私に言った。
「知っててくれたんだ、うれしいな。そう、私は志田莉子。昔、声優をやってたの」
私は頭の中で、志田莉子のプロフィールを思い出した。
志田莉子。
職業、声優・アーテスト。人気アニメに数多く出演し、紅白歌合戦にも出場経験がある、声優界のスーパースターだ。しかし1年前に交通事故で亡くなってしまった。確か、享年は23歳……。
「って、享年? 亡くなったはずの志田莉子がなぜここに!」
私は思わずのけ反ると、また尻もちをついてしまった。すると目の前の志田さん(なのか?)もしゃがんで、私にぐいと顔を近づけた。なんでもないような調子で、彼女は語った。
「そりゃ、私が幽霊だからに決まってるじゃない? 私ね。突然死んじゃったから、この世に未練があったの。だから形見のレコーダーに入り込んで、誰かに拾われるのを待ってたんだ!」
私は彼女の言葉の意味が理解できず、口をぱくぱくとさせた。そんな私を見て、彼女は笑った。
「ねえ堅苦しいから、莉子って下の名前で呼んでよ。私もあなたのこと、呼び捨てにするからさ。あなたの名前は?」
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