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秋也の言葉に、私は目を大きくさせた。
「しほの辛い気持ちはよく分かる。でもここで諦めたら、絶対に悔いが残ると思うんだ。俺もしほと一緒に頑張る。だからさ、もう一回やってみようよ!」
秋也の言葉は、私の心のネガティブな気持ちを吹き飛ばしてくれた。おかげで私は元気になり、指先の感覚も元に戻った。その時、ふと私は莉子の言葉の真意を理解した。
私は目を閉じると、莉子の言葉を心の中で呟いた。
(自分の至らなさを受け入れて、それでも挑戦し続けることよ)
莉子の言う通りだ。私は自分なんてダメだと卑下して、すぐに諦めてしまう癖がついていた。でもそれじゃ、いつまで経っても前に進めない。不安でも怖くても、踏み出す勇気を忘れちゃダメだ!
私はゆっくり目を開けると、大きな声で叫んだ。
「決めた。私、もう逃げない! だからもう一度頑張ってみるよ」
秋也は「しほならきっとできるよ」と笑うと、私の頭をぽんと撫でた。その手はとても優しくて、あたたかかった。
そして監督のかけ声で、止まっていた収録が再開した。
私は台本を片手に持って、マイクの前に立った。そして私はもう一方の手で、レコーダーが入った胸ポケットを軽く触った。
すると目の前に莉子がいるように感じられて、私はその莉子に語りかけるように、セリフを口にした。
「クロトに出会えてよかった。でも、私はもう大丈夫だから。今までありがとう」
私が発した言葉たちは、星のようにきらきらと光りながら、空へ駆け上っていった。私はそれを見て、前に莉子が演じてくれた時のことを思い出した。
でもそのきらめきは前回以上で、スタジオ全体に広がった光は、まるで天の川のように美しく輝いた。
「オーケーです。宮越さんの最後の演技、最高だったよ! みんなも収録、お疲れ様でした!」
スタジオに入ってきた監督が、にっこり笑った。その声に秋也たちが飛び上がり、スタジオは大歓声に包まれた。
こうして「シルバー・ワールド」の収録は、無事に終わった。
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