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収録の余韻が残ったスタジオの端で、私は秋也に話しかけた。
「秋也、さっきは本当にありがとう。秋也のおかげで、私、最後まで演じ切れたよ」
秋也は頭を掻くと、恥ずかしそうに笑った。
「俺は何もしてないさ。しほが、諦めずに頑張ったからだよ」
秋也の優しくて謙虚なところは昔から変わらないな、と私は思った。そして私は、秋也の背後に向けて話しかけた。
「莉子もありがとうね。そこにいるんでしょ?」
秋也が驚いて後ろを振り向くと、秋也の肩から煙が立ち上った。私の予想通り、そこには莉子がいた。私は莉子を見ながら続けた。
「莉子ったら、秋也くんの体に憑依してたのね。急に消えちゃって、本当に心配したんだから」
莉子は頭に手を当てると、ぺろっと舌を出した。
「ごめんごめん。それよりしほ。さっきのお芝居、すごくよかったよ。だから言ったでしょ。しほはやればできるんだって!」
私は力強く頷くと、莉子をじっと見つめた。
「うん。私、これからも声優として頑張ってみるよ!」
莉子は満ち足りた笑みを浮かべると、小さな声で呟いた。
「よし。しほのお芝居も見られたし、急用も済ませた。これで思い残すことはないかな」
私はずっと気になっていたことを、莉子に尋ねた。
「ねえ、莉子。あの急用って、一体何だったの?」
それはね、と莉子は秋也をちらっと見つめると、私にウインクをした。
「私、昔から秋也みたいなイケメンになりたいっていう、変身願望があってね。遂に我慢できなくなって、昨日の夜、秋也の家に行って憑依させてほしいってお願いしたの!」
秋也は「昨日はびっくりして、実は一睡もできてないんだ」と、疲れた顔で言った。二人の会話を聞いた私は、思わず頭を抱えた。もう莉子ったら、私の気も知らないで……。
「まあでも、それで今日のしほがあるんだから、結果オーライじゃない?」
莉子は笑うと、優しい目で私を見た。
「しほ、今までありがとう。じゃあ私、行くね」
「待って、莉子!」
私が叫ぶと、莉子は私の胸ポケットに入っていたレコーダーを指さした。
「しほは、もう一人でも大丈夫だよ。もし困ったことがあったら、そのレコーダーを再生してみて。私、しほに内緒で、ボイスメッセージを録音しておいたの」
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