ユーレイ声優

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 声優事務所の一角にある会議室は、重苦しい空気に包まれていた。 「今回も期待に応えられなくて、すみません!」  私は正面に座っているマネージャーさんに、勢いよく頭を下げた。こうやってオーディションの不合格を伝えるのも、もう何十回目だろうか。  俯いた拍子に、目にたまった涙が零れそうになった。私は瞬きを減らして、必死に堪える。  やっと夢だった声優になれたのに、なんでこんなにうまくいかないんだろう……。私は心の中で、そう呟いた。  私の名前は宮越(みやこし)しほ。23才の新人声優だ。  子どもの頃からアニメが大好きだった私は、高校を卒業して声優養成所の門を叩いた。私はそこで声優としての基礎を学び、21歳の時、今の声優事務所に所属することができた。  しかしプロの世界は甘くなかった。デビューしてからの2年間、私はオーディションにことごとく落ち続け、大きな役が一つももらえずにいた。大きな挫折を経験した私は、声優としての自信を完全に失っていた。  マネージャーさんが会議室から出ていくと、我慢していた涙が滝のように溢れ出た。やっぱり自分にはお芝居の才能がないんだと、私はわんわんと泣いた。  ようやく泣き止んだ私は、会議室のドアを開けた。通路の奥にあるトイレで、顔を洗おうと思ったのだ。誰もいない通路を、私は一人歩き出した。  通路は昼間とは思えないほど、薄暗かった。通路の真ん中まで歩いた私は、スニーカーの足先に小さな衝撃を感じた。なんだろう、と私は足下を見た。 「あれっ、なんでこんなところに?」
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