わたしはほうせき

1/1
前へ
/5ページ
次へ

わたしはほうせき

 生きている場所は、物心がついた時から路上だった。  硬いレンガで出来ている建物の隙間で、どこかの誰かが着古して、もしくは飽きて捨てたのであろう古着を集め寝泊まりをしていた。  拾い集めて来た、自身の体格にかろうじて見合う子供用の服の中で、なるべくおんぼろで汚れの酷いものを選んで身に着ける。  そうして人通りの多い通りに出ると、追い立てられることの少ない教会や、図書館などの前にしゃがみ込む。  もう少し身体が育つまでは、私に出来る仕事はこれしかないと思っていた。  ほら、でもこれだけでじゅうぶんだ。  時折、瞳に哀れみと優越感を映した、上品な身なりの紳士や婦人が、僅かばかりの金銭や食べ物を恵んでくれる。  無知で知識のない自分には、人から与えてもらう以外、金銭を稼ぐことがまだ難しい。  食べ物の方は、レストランの裏口を何件か回ることで手に入る場合があった。  ただ、ねらい目はゴミを出しに来るのが、貧乏な下っ端である時だけだ。  もう少し上の立場である人物が、煙草や葉巻を吸う為に顔を出したら、急いでその場を離れなければならない。  水だけは、公園に噴水があるので困ることはなかった。  しかし、水を飲みに行く際は着替えが必要だった。  手持ちの中で、それなりにマシな服装を見繕わなければ、痩せっぽちでチビでなんの力もない私は、あっという間に死よりも悲惨な目に合う可能性があった。  私の住む路地裏に一番近い水飲み場は、そう言う、治安の良くない公園だった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加