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わたしはほうせき4
支度を終えると、彼は私を連れて外出する。
もう、夜がやって来る頃だと言うのに、こんな子供をどこへやろうと言うのだろう。
けれど私は、自分の状況や状態に強い関心を示したり、行く末を心配したりするような、本能と言うものをとっくに捨てていた。
彼と出会ってからここまでは、眉一つ動かすことすらしなかった。
夕暮れ時の、行き交う人の減った街道を黙々と手を繋いで歩く。
その温度に、慣れる時が来るのだろうか。
それともこれは一時的なもので、すぐに他の大人の肉体の一部と取り換えられてしまうのだろうか。
ううん、もしかしたら、すぐにでもなくなってしまうのかもしれない。
そんなことを思ったのを、覚えている。
そう。
その男性は、自分の名を最後の時まで名乗らなかった。
そのかわりだと言って、私に仮の名をつけた。
「さあ、行こう、シャーリーテンプル」
その夜から私はその名を、彼を看取る日までずっとずっと何年も名乗り続けた。
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