1本の電話

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1本の電話

 固定電話が鳴った。 「はい、〇〇です。」  うたた寝から起こされた拍子に、うっかりディスプレイを見ずに出てしまった。  はたして、相手は蕎麦の押し売りらしかった。  ツイていない。 「お蕎麦など、ふだん召し上がられますかー?」  私はサッサと話を終わらせようとして言った。 「あー、蕎麦は年越しそばくらいしか食べませんー。」  すると、 「戸隠蕎麦はいいですよねえー!」  ソッコーで切り返された。  としこし、とがくし。  うむ、似ている。  じゃなくて!  ヤバい、  こいつ、  プロだ、  怖い、    ガチャ。  私は受話器を置いた。  プロの押し売りは遮断するに限る。  てか、それしかない気がする。  でなければ、あっという間に大事な家計を持っていかれてしまう。我が家にとってはそんなん、ほぼ強盗に近い。  世の中どこでどろぼうに遭うか、わかったもんじゃない。物騒な世の中だ。  身震いしつつも、年越しそばくらいは予約してあげてもよかったのにと、同じ不況の世を生きている身としてちょっと後悔した。
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