そのままで

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 帰り道、ペダルを漕ぐ足が行きよりも軽く感じられた。道すがら、理穂がウ、ウ、と指差すものが自然に口に出る。 「自動車、はやいねー」 「信号赤だね」  そうして手を繋いで家の玄関を開けた。  リビングからドタドタと足音がして、焦ったみたいな理人の声がした。  待ってて、と言われていたことをすっかり忘れてしまっていた。 「瑞穂!」 「あ、ただいま」 「どこ行ってたんだよ、電話も出ないし。心配するだろ」 「うん、ごめん」  もう、とか、大丈夫か、とか言いながら、理人が私の頭や肩をさすってくる。  全力を注いで私を心配しているのが、その手から直に伝わってきて。ぼやけていた私の輪郭が、触れられたところから鮮明な像を結んでいくように、自分が戻ってきた感覚がした。  同時に、結婚するときに理人が口にした言葉を思い出した。 「俺と瑞穂は性格が正反対だから、二人で一緒にいると完璧で無敵だな」  あのときは、理人の調子のよさに呆れるほどの気持ちで聞いていたけれど、今になって心に温かく染み込んできた。
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