2022/9/29 「催眠」

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最近俺はある悩みに悩まされていた。それは眠れないこと。学生の頃はベットに横になればものの三秒で眠りにつくことが出来ていたのに、今では寝ている時間よりもただ横になっている時間の方が長いくらいだ。しかし医者によるとまだ軽度の方らしく、薬を使うと悪化する恐れがあるためひとまず様子見だなどと言われてしまいほとほと困り果てていた。そんな時だ、俺の救世主に出会ったのは。Youtubeの眠れる音楽を最後まで視聴してしまい、ぼーっとおすすめ欄を眺めていたある日気になるものが目に飛び込んできた。 「催眠音声?催眠術でもたらされる極上の睡眠をあなたにって本当か?」 サムネは黒い画面に白い文字で眠れる催眠音声と書いてあるだけで、タイトルからもあやしさ満載であった。 「催眠なんて対面ならまだしも音じゃ無理だろ。でもこれ500万再生もされてる。」 マイナーなコンテンツであるのにその再生数は異様に多く、どうせ寝れないしと面白半分で再生してみた。 「皆さんこんばんは、夜空です。今日も眠れない夜を過ごしていますか?でも大丈夫。僕が皆さんをめくるめく夢の世界へお誘いいたしましょう。初めての方も常連さんもぜひリラックスしていってくださいね。」 イヤホンから流れるのは、男性の低くかすれた優しい声。 「なんだよ、女向けか?まあいいか寝れないのは変わらないし。」 「じゃあまずベットに横になって仰向けに寝てください。手は体の横においてね。できましたか?」 ぶつぶつ文句を言いながらも、両耳から流れるいい声は心地よく多少反抗しながらも、ついつい言うことを聞いてしまう。 「じゃあ深呼吸しましょう。息を吸ってー、吐いてー。これを繰り返しますよ。はい、吸ってー、吐いてー。」 彼の声に合わせて深呼吸をしていると、イライラしていた頭の中が波がひいていくようにすっきりとし始め、体からもどんどん力が抜けていくのが分かった。それに何だか頭がぼーっしている。これはよく分からないが気持ちいいかもしれない。 「リラックスできましたか?それでは僕の声にだけ集中して、何も考えないで。流れに身を任せてぼーっとしていてください。では手足の力を抜くところから始めましょうか。」 俺が覚えているのはここまで。いつぶりかもわからないほど久しぶりに目覚ましの音で目を覚ますと、辛かった体のだるさや疲れは取れすっきりと目覚めている自分がいたのだった。それからというもの俺は毎晩その催眠音声を聞いて眠るようになった。催眠術というのは何度もかかればかかるほど余計に効き目があるらしく、もう病院に行く必要もないほど俺の睡眠状況は改善されていた。 「マジで夜空さんサイコーだわ。この人がいなきゃもう俺眠れないよ。だけどまだ最初の三十分ぐらいしか聞けてないんだよな。いつも寝ちゃうし何話してくれてるんだろう。」 俺自身催眠が聞きやすい体質なのか、最近は深呼吸をしているだけで眠くなってしまい、今まで聞いたことがあるのは動画の三分の一ぐらいだけなのである。 「でも夜空さんこの動画一本しか出してないんだよなー。それも七か月前だし新作出ないのかな?」 夜空さんは元々あまり活動する気はなかったのかこの動画一本だけをあげで、Youtubeから消えてしまった。しかしそれでも俺のように根強いファンがいるのか再生数は1000万を超えている。 「今日こそは最後まで聞いてみたいけど、俺寝ちゃうだろうな。でもまさか寝ちゃうかもって心配できる日が来るなんて。これもすべて夜空さんのおかげだな。ふふ、おやすみなさい。夜空さん。」 そういうと俺は今日も目くるめく夢の世界へ一歩踏み出したのだった。 ー---------------------------------- 「よしこれで皆大体眠れたかな?まあここまで聞ける人は多分いないだろうけど、もし眠れないって人がいたら病院行ってね。それじゃあこの動画はここまで。聞いてくれてありがとう。そうだ最後にもう一つ催眠をかけておこっか。また明日も明後日も僕の声を聴きに来てね。そうすればみんなは眠れて僕は半永久的にお金が手に入る。winwinでしょ?この話は忘れてね。それじゃあよい夢を。」
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