9番目の媚薬

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ある町に小さなバザールがあり、貧しい娘が果物を売っていた。 「幸せになりたいわ。このざくろのような宝石を胸元に付けて、絹を着て暮らしたいわ。そして果物を売るのではなくて、買うの。」 娘は自分が一日中売っている果物を口にしたことがなかった。鞭で打たれるからだ。毎日、隣りに座って手相を観ている占い師のばあさんは笑う。 「宝石も絹も大した幸せじゃない。かわいいお嬢さんよ。」 「あなたに言われたくないわ、おばあさん。」 「今にわかるよ。」 そしてばあさんは魔法使い、悪魔、王女様の話を聞かせてくれる。 「こんなお話はいらないわ。おなかの足しにもならないーでもつい聞いてしまうの。」 「そうだろう、わたしだって若い頃に大好きだったからね。」 しばらくしたある日、素晴らしい身なりをした美しい若者がバザールにやってきた。 「宮廷で王様の愛妾を探している。美しい娘。自薦他薦を問わず。条件は処女であることだけだ。」 娘は胸を躍らせた。わたしが王様の愛人になれるかも知れないー? 「やめておきな。悪いことは言わないよ。あの王様の評判を知っているのかい?」 ばあさんは引き留めたが、娘は聞かなかった。 「お前が…王様の愛妾に立候補だと?処女か?」 「はい。」 「何ができる?」 「楽しいお話ができます。」 「うーん…」 明らかに、若者は娘を見て渋っていた。へたな女を宮廷に入れれば、自分の出世に響く。歌も踊りもだめ、お話が得意とは…微妙だ。 「まぁ、数が足りないから、最後に足しておいてやろう。」 「ありがとうございます!」 「村長の娘ということにしておこう…そうだな、シェヘラザードとでも名乗れ。明日には出発する。せいぜい顔でも洗って来い。」 娘は占い師のばあさんに、自分が王宮に行くことを教えた。 「…知ってたさ。あたしは占い師だよ。」 「ほんとうに?」 「ああ、本当さ。お前さんの餞別はもう用意してあるよ。」 ばあさんは小さな小瓶を9つ、取り出した。 「惚れ薬だ。ひとつで一晩だけ効く。飲み物にこっそりと混ぜるんだよ。」 「ありがとう。でも一晩しか効かないのに9本だったら、10日目はどうするの?」 「10日目はお前さんが自分で考えるさ。」
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