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ある町に小さなバザールがあり、貧しい娘が果物を売っていた。
「幸せになりたいわ。このざくろのような宝石を胸元に付けて、絹を着て暮らしたいわ。そして果物を売るのではなくて、買うの。」
娘は自分が一日中売っている果物を口にしたことがなかった。鞭で打たれるからだ。毎日、隣りに座って手相を観ている占い師のばあさんは笑う。
「宝石も絹も大した幸せじゃない。かわいいお嬢さんよ。」
「あなたに言われたくないわ、おばあさん。」
「今にわかるよ。」
そしてばあさんは魔法使い、悪魔、王女様の話を聞かせてくれる。
「こんなお話はいらないわ。おなかの足しにもならないーでもつい聞いてしまうの。」
「そうだろう、わたしだって若い頃に大好きだったからね。」
しばらくしたある日、素晴らしい身なりをした美しい若者がバザールにやってきた。
「宮廷で王様の愛妾を探している。美しい娘。自薦他薦を問わず。条件は処女であることだけだ。」
娘は胸を躍らせた。わたしが王様の愛人になれるかも知れないー?
「やめておきな。悪いことは言わないよ。あの王様の評判を知っているのかい?」
ばあさんは引き留めたが、娘は聞かなかった。
「お前が…王様の愛妾に立候補だと?処女か?」
「はい。」
「何ができる?」
「楽しいお話ができます。」
「うーん…」
明らかに、若者は娘を見て渋っていた。へたな女を宮廷に入れれば、自分の出世に響く。歌も踊りもだめ、お話が得意とは…微妙だ。
「まぁ、数が足りないから、最後に足しておいてやろう。」
「ありがとうございます!」
「村長の娘ということにしておこう…そうだな、シェヘラザードとでも名乗れ。明日には出発する。せいぜい顔でも洗って来い。」
娘は占い師のばあさんに、自分が王宮に行くことを教えた。
「…知ってたさ。あたしは占い師だよ。」
「ほんとうに?」
「ああ、本当さ。お前さんの餞別はもう用意してあるよ。」
ばあさんは小さな小瓶を9つ、取り出した。
「惚れ薬だ。ひとつで一晩だけ効く。飲み物にこっそりと混ぜるんだよ。」
「ありがとう。でも一晩しか効かないのに9本だったら、10日目はどうするの?」
「10日目はお前さんが自分で考えるさ。」
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