不安泥棒

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時間にしたら、15分位だろうか。 淡々と事は運び、夫の満足と共に私の身体も解放された。 こんな時だけは、自分のことしか考えていない夫によるあっさりとした行為を、ありがたく思ってしまう。 学生時代に出会い、それなりの長い付き合いを経て当たり前のように結婚した私と夫だが、今となってはこんな毎日だ。 馴れ合いのせいかもしれないし、お互いの努力不足かもしれない。 大きな問題は起きていないが、小さな不満は解決できないまま、薄い層になって積もってきているのを感じている。 長年一緒にいれば、そんなものなのかもしれない。性格の不一致、なんて言葉もあるが、元々別の人間である以上、そもそも一致しなくて当たり前のはずだ。それでも今日のように、特に自分の中で消化しきれていないことが重なった日は、自宅にいるのに、安らげる場所に帰りたい、という気持ちになってしまう。 昔から私は心配性だったし、騒がしい場所や大きな音にも不安や怖さを感じるタイプだった。 数年前から少しずつその傾向が強くなりがちで、今回の様にパニック発作を起こしたことが何回かある。 今朝は、少し向こうの方で、怒鳴り合いの喧嘩をする声が聞こえてきたのがきっかけだったように思う。でも本当の所は、私にも良くわからない。 不安や緊張から解放される、安らげる場所って、どこにあるんだろう。生きている間に、見つけられるのかな。 不安な気持ちが湧き上がってこなければ、きっも今よりは楽になれるのに。それこそ私の心の中から、不安という感情を盗んでどこかに捨ててきてくれたら良いのに。 私の心が平和でいられるように、悪口も喧嘩も競争も戦争も、この世に無ければ良いのに。 「って、それじゃ社会は成り立たないか…。」 「えっ?なんか言った?」 「ううん、別に。じゃ、シャワーしてきたら寝るね。」 「おー。」 さっそく私に背を向けて、今度は配信動画を見始めた夫の背中に小さなため息をぶつけ、私は寝室を後にした。
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