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それから三年の年月が経った。ジルバートがペルナ家の執事になって、もう五年になる。
両親よりも密度の濃い時間をジルバートと過ごし、ポーラは彼を実兄よりも兄として、時には自分の親のようにも見るようになった。
「ジル。今日はちょっと遅くなるね」
朝学校に行く前に、ジルバートに耳打ちする。
「例の活動ですね」
「そう」
両親には秘密で、演劇部に入った。兄たちは大学に進学したため、バレることはないだろうと見込んで。
今日は文化祭で披露する劇の、役を決める日だった。
ポーラは恥ずかしながら、主役をやりたいと思っていた。密かに真似をしてきたオードリーのように、真ん中で役を演じてみたい。
見た目の綺麗さならば、平凡な顔立ちの自分は不利。だけど演技で勝負したい。
台本は配られていて、すでに目を通していた。
主人公の姫が、他国の王子に人質として攫われる。後ろにナイフを突きつけられながら気丈に振る舞って、自国が王子の国と戦争にならぬように、交渉していく話。
王子の国に襲いかかっていた危機を回避することに協力し、やがて自分を攫った王子と恋に落ちー・・・結ばれる。
ロマンティックな物語だった。
放課後、演劇部の部室に人が集まった。ポーラは恥を忍んで、主人公の姫役のオーディションに思いきって立候補する。
仲間が「あの大人しいポーラが?」とでも言いたげに、ポーラをじろじろ見ていたけれど、上げた手を下ろすことはしなかった。
帰宅した夜、ジルバートの部屋の前に行きノックをする。
「はい」
「ジル、私よ。お願いがあってきたの」
ドアがゆっくり開かれると、「どうぞ」と低い声が流れてきた。
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