未完成なティアラを、貴方から

8/12
前へ
/12ページ
次へ
「アイヴェット姫、どこに行くんだ」 「貴方の国の問題は解決しました。ですので故郷に帰らせていただきます」 「待ってくれ、アイヴェット」 「フィリック王子・・・貴方には婚約者がいるのでしょう」 「婚約者なんていない」 「いいえ。私はこの耳ではっきり聞きました」 ジルバートの低い声が王子役と妙にマッチしているからか、ポーラの胸が少し、鼓動してしまう。 「婚約は解消した。僕はアイヴェットを愛しているんだ」 ジルバートが、ポーラの手を取った。 「僕と結婚してくれ」 「フィリック・・・」 フィリック王子を・・・役を演じるジルバートを見つめた。 「私も貴方が好き。愛しているわ」 ここで本番では、相手役とキスをした“フリ”をする。 ポーラの胸が、緊張からか高鳴っていた。 (これ以上練習するのは、恥ずかしくて無理!) ジルバートにさらりとお礼を言って、切り上げようとした。 だけど・・・ジルバートの顔がポーラのすぐ近くにあった。 長いまつ毛、切れ長の瞳、薄いブルーの瞳がポーラを見据えている。 (キスされる・・・) ドキドキしてぎゅっと目を瞑ると、ふふっと微かな笑い声が聞こえてきて。 「ジル?」 瞬間、自分がジルバートに揶揄われたのだと理解した。 「もう、ジルっ」 ジルバートの胸を叩くと、彼はクスクスと笑ったまま。 「お嬢様は本当、可愛いですね」 目を細めながらポーラを見つめるその眼差しが優しくて、その日の夜はなかなか眠りにつくことが出来なかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加