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「アイヴェット姫、どこに行くんだ」
「貴方の国の問題は解決しました。ですので故郷に帰らせていただきます」
「待ってくれ、アイヴェット」
「フィリック王子・・・貴方には婚約者がいるのでしょう」
「婚約者なんていない」
「いいえ。私はこの耳ではっきり聞きました」
ジルバートの低い声が王子役と妙にマッチしているからか、ポーラの胸が少し、鼓動してしまう。
「婚約は解消した。僕はアイヴェットを愛しているんだ」
ジルバートが、ポーラの手を取った。
「僕と結婚してくれ」
「フィリック・・・」
フィリック王子を・・・役を演じるジルバートを見つめた。
「私も貴方が好き。愛しているわ」
ここで本番では、相手役とキスをした“フリ”をする。
ポーラの胸が、緊張からか高鳴っていた。
(これ以上練習するのは、恥ずかしくて無理!)
ジルバートにさらりとお礼を言って、切り上げようとした。
だけど・・・ジルバートの顔がポーラのすぐ近くにあった。
長いまつ毛、切れ長の瞳、薄いブルーの瞳がポーラを見据えている。
(キスされる・・・)
ドキドキしてぎゅっと目を瞑ると、ふふっと微かな笑い声が聞こえてきて。
「ジル?」
瞬間、自分がジルバートに揶揄われたのだと理解した。
「もう、ジルっ」
ジルバートの胸を叩くと、彼はクスクスと笑ったまま。
「お嬢様は本当、可愛いですね」
目を細めながらポーラを見つめるその眼差しが優しくて、その日の夜はなかなか眠りにつくことが出来なかった。
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