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一週間後、姫役のオーディションの日が訪れる。自分の他にいた三人の立候補者を見て、緊張で吐きそうになりながらも、ポーラは今まで練習した分を余すことなく出し切った。
そして投票が行われ、ポーラは見事姫役を勝ち取った。
(やった・・・やったー!)
人生で一番、幸福と感じる瞬間だった。このことを早くジルバートに報告しなければと、足早に家に向かった。
「ただいま!ジル!」
エントランスで靴を脱ぎながら言うと、いつも出迎えてくれるジルバートの姿が見えないことに気づく。
「ジル・・・?」
不思議に思いながらダイニングに行くと、信じられない光景に足が震えた。
「ジルバート、貴方を本日付で解雇します」
母さまの冷たい声が響いた。ジルバートは母さまと父さまの前で土下座している。
「母さま、父さま、何なの!?何でジルバートがこんな姿で謝っているの!?やめてよっ」
ジルバートの前に立って、喉が潰れそうなくらい声を張り上げた。
「ポーラ。成績も振るわないのに、演劇部なんかで遊んでいたらしいわね」
母さまの台詞が、ポーラの心臓を握り潰した。
「それを知っていて辞めさせなかった、ジルバートの監督不行き届きです」
「しかもこんな物まで買っていたとはな」
父さまがポーラの大切な、オードリーのビデオを手に持ち振り上げる。それをそのまま叩きつけようとした父さまの手首を、ジルバートが掴んだ。
「旦那様、それはお辞めください。おっしゃる通り私は、執事の任務を全うできませんでしたので、すぐに出て行きます。今月分の給与も手切れ金もいりません。どうかビデオは、お嬢様にお返しください」
ジルバートは父さまからビデオを掴みあげてポーラに手渡し、大丈夫ですよ、とでも言うように笑いかける。
ジルバートの解雇を取り消すよう説得したけれど、一度決めたらテコでも動かない両親の決断を、ポーラは変えることができなかった。
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