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ゴソゴソと物音が聞こえて、服を着てくれたのかと一安心する。
しかし、隼の足音がこちらへと向かって来ているのを感じて体を強ばらせた。
「…意識してんの?」
すぐ後ろからやけに色っぽい声が聞こえて、肩が揺れる。
「し、してねぇ」
「なーんだ」
つまらなそうにしながら隼の足音が遠ざかって行き、ほっと息を吐く。
髪の毛をある程度乾かして、大浴場を後にする。
「あ」
すぐそこにあるアイスの自販機が目に入り、足を止めた。
「ちょっと休憩してこうぜ」
「いいけど…」
各自アイスを買って、中庭にあるベンチに腰を下ろす。
夏の夜風が風呂上がりの体にあたって気持ちが良い。
「お前さぁ、俺の事好きって言ってくれたじゃん」
「んー」
「それってどんな気持ち?好きって何?」
「え……」
アイスを食べながら、後ろに手を付いて隼の横顔を見つめる。
半分濡れた髪の毛をかきあげている横顔は、男の俺から見ても色気を感じる。
「…なんだろうな。…お前の全部が欲しいし、笑ってて欲しい。……俺だけを見ててくれたら幸せだなぁって思う。辛い時には支えてやりたいし、一番に頼ってもらえる存在でありたい」
横目で見られて、視線を逸らせなくなった。
「悲しい思いとか、苦しい思いをさせたくない。叶うなら、幸せにしてやりたい……」
聞いた事ないくらい真剣な隼の声が、体中に響き渡る。
「一番は、お前に隣で笑ってて欲しい」
「……ついさっきまで、縁切ろうとしてたやつの言葉とは思えねえな」
笑いながら言えば、隼も小さく笑った。
笑っていないと、泣いてしまいそうだった。
そんな風に考えていてくれたことも、俺は何も知らなかった。
「お前が俺の覚悟ぶち壊したんだろ」
アイスにかぶりつきながら言う隼に、クスリと笑う。
「……俺、お前の事好きなのかな」
「俺に聞くなよ」
夜空を見上げれば、沢山の星達が俺たちを見守っていた。
「お前の笑顔を、ずっと近くで見ていたい」
「え?」
「ずっと俺を一番に想ってて欲しい」
鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている隼を見つめて、思わず笑ってしまった。
「それじゃ答えんなんねぇ?」
問い掛けても、隼は目を見開いたまま微動だにしなかった。
何も言ってくれない隼に、持っていたアイスを自分の口に突っ込んだ。
甘いチョコレートの味が、口いっぱいに広がる。
「……なんか言えよ」
「いや…え、だって……それって」
「なんだよ」
「……告白みてぇじゃん」
片手で顔を抱えながら言う隼に、一瞬で顔に熱が集中した。
「そ、そんなこと…は……」
いつの間にかアイスを食い終わっていた隼が、ベンチに座る俺の前に座り込む。
いつも見上げている隼に下から見つめられて、不思議な感覚になった。
「…男同士だし、理解されない事も多いかも知んない…でも、俺はずっとお前と一緒に居たい」
手を包み込まれて、体が小さく跳ねた。
「…一緒に、生きて欲しい」
まるでプロポーズみたいな言葉に、アイスを持つ手で口元を抑える。
頬が緩むのを抑えられない。
嬉しいと思ってしまった。
その感情が、俺の答えなのだと思った。
「ん…」
小さく二度頷くと、さっきまで男前な顔をしていた隼の顔がくしゃりと崩れた。
「琉」
「ん?」
「…好き」
直球に言われて、耐えきれずに視線を逸らした。
「隼」
「な…んぶっ」
僅かに残っていたアイスを隼の口に突っ込んで、座り込む隼の体を優しく抱きしめる。
今はまだ、好きという言葉はあげられない。
こんな自分でもよく分かってない中で、真剣に俺を思ってくれている隼に伝える事は出来ない。
戸惑いがちに隼の手が俺の体に回る。
「俺…絶対、ずっと、お前が一番だから。……つか、比べる対象も居ないくらい」
「ん。」
俺の体を離して、アイスの棒を持ったままその場に立ち上がる隼を見つめた。
にっこりと笑うと、俺の頭に手を添えて優しいキスをしてくる。
チョコレートの味が再び口中に広がった。
至近距離で俺の目を見つめ、くしゃくしゃの笑顔を零した。
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