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単なる口喧嘩で騒がれるのがやけに恥ずかしくなって、慌てて二人の言葉を否定する。
「ちょっと言い争いしただけだから」
「言い争い?琉と隼が?」
目をまん丸にさせている尚を見て、小さく息を吐いた。
「そ。だから大丈夫」
「分かってないなあ琉。口喧嘩は殴り合いの喧嘩より厄介なんだよ」
やれやれ。と呆れた様子で言う尚に、雷も大きく頷いた。
「殴り合いの場合はその場で決着付くけど、口喧嘩だとどっちかが譲らねえ限り解決はできないからな」
「…なるほど」
「で、今度は何があったって?」
机に腕を着いてそこに顔を埋めながら、顔を近づかせてくる二人を見る。
心配そうな二人の様子を見ると、興味本位で聞いている訳では無いことは明らかだ。
「な、二人はさ隼に本命が居るって知ってた?」
「「本命?あの隼が?」」
二人声を合わせて、目をまん丸にしている姿はまさしく昨日俺がしたのと同じような反応だった。
「んー、だからそれなら女遊びやめろっつったの。したらおめぇに関係ねぇだろって言われて、俺が逆ギレして帰った」
「なーるほど」
尚は傍にあったイスを引っ張って、それに腰を下ろしながら両腕を胸の前で組んだ。
「つーか珍しくね?琉が人の事にそんな口出しするの」
「俺も思った」
尚と雷に両方から攻めよられて、2人の目を交互に見やる。
「だって…本命の女いる事も知らなかったし、最近の隼が何考えてるのかわかんなすぎて…」
「そりゃそーだろ、人間だもん」
まるでどこかの詩人のような雷の言葉に、思わず吹き出してしまう。
「なんで笑うんだよ!」
「や、ごめん、ごめん」
「でもほんとそうなんだって、人の考えてる事なんて話してみねぇと分かんないもんだろ?」
「だねぇ。それ以外は結局想像する事しかできないからね」
雷と尚にそれぞれ言われて、口を噤んだ。
けれど、聞いても答えて貰えない場合はどうすればいいのだろうか。
「にしても、あいつに本命ねぇ」
「意外だよね」
「「で、誰」」
「知らねぇよ。本人にも伝えるつもりねぇって言ってたし」
「「あの隼が?」」
2人が再び目を丸くさせた所で先行が入ってきて、俺はシッシッと2人を追い払った。
午前中の授業に隼が顔を出すことはなかった。
あいつが授業をサボるのなんて今に始まった話でもないし、いつもだったら気にもとめない。
けれど、タイミングがタイミングだ。
さすがに喧嘩して次の日に授業をサボられると、良い気はしない。
無意識にため息を吐きながら廊下を歩いていると、朝隼と共に居た女が空き教室から出て行ったのが見えた。
上機嫌そうに出て行った女の後ろ姿を見ながら、俺の通り道にあるその空き教室をチラリと覗いて見た。
少し開いた扉の隙間から見えた、はだけたブラウス姿で座り込むそいつの姿に、見てはいけないものを見てしまったような感覚に陥る。
学校とは思えない雰囲気を醸し出す隼に、イラ立ちが再び心の中を覆った。
人の気配を感じたのか、隼の視線がこちらへと向く。
バッチリと目が合って走って逃げたい衝動に駆られた。
「…また文句言いに来たの」
力無い声がやけに色っぽく聞こえて、心臓が大きく跳ね上がる。
「別に」
教室に入って、隙間がないように扉を閉めてやる。
視線を窓の外に逃がしながらも服を着ようとしないそいつに小さくため息を吐く。
「…服着れば」
「琉」
「なんだよ」
「お前が何考えてんのか、良く分かんねえや」
「こっちのセリフだよヤリチン野郎」
やけにイラつく。
机に腰を下ろして笑いながら吐き捨てると、ゆらりと隼が立ち上がった。
こちらへと歩み寄ってくるそいつの体には、一昨日付けられたと思われる痣が沢山付いていた。
申し訳なさに頭を奪われていると、ガタンっとやけに大きな音を立てて隼の手が俺の座っていた机に付いた。
俺の体を包み込むように立ちはだかる隼の体に、目を見開く。
開いた俺の足の間に体を入れ込んでくるもんだから、逃げ場が無くなってしまった。
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